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歴史に見る模型飛行機の顔さまざま
(8)  模型飛行機はホビーとスポーツの複合活動
 

大村 和敏
2010.10.15
   
   
図1 模型飛行機はホビーとスポーツの複合活動

         
         左上:製作、左下:設計、右:エンジン付フリーフライト機の発航

1.はじめに

 統一タイトルが「顔さまざま」であるように、模型飛行機に関わる活動は一筋縄ではなく、切り口によって違った姿を見せます。前回まで7回の連載を重ね、7つの顔を見せました。例えるならば、筆者は群盲の一人になって巨象を撫で回しつつあるわけです。前回までは結果として見せた顔を列挙してきました。今回はそれを掘り下げてさまざまな顔になる根源を分析してみます。

 模型飛行機に関連する活動(楽しみ方)は、「ホビー」(模型飛行機を作る)の部分と「スポーツ」(模型飛行機を飛ばす)の部分に大別できます。
 両方の部分は、個別に楽しむことも可能ですが、連続した一貫活動が理想で、競技規定ではそのことを「競技参加者はBuilder Of the Model(当該参加機の製作者)であること」と記しています。

 この規定条項は頭文字をとって「BOM条項」と呼ばれ、昔は競技に参加するときには厳密に履行しなければなりませんでした。現在は緩和規定がありますが、模型飛行機のやり方の理想像を示す条文ではあります。BOMであること、つまりその活動の中身がホビー/スポーツ複合体であることが、模型飛行機の顔としてはきわめて重要であり、さまざまな遊び・楽しみの活動の中でもユニークな点です。
 「BOM制模型飛行機」は、ホビーの切り口で言えば「動的な機能を発揮させて、作品の良否を評価・競争する、ものつくり活動」、スポーツの切り口で言えば「影響が重大な用具(模型飛行機)を自作して、それを用いたスポーツ競技を行い、当該用具の製作技能と操作技能が平等に成績に影響するスポーツ」
なのです。

              図2 F1自動車
         
        製造者が参加単位であり、常時新設計が行なわれ、レースごとに改造・
        熟成される。製造者とドライバーに、別個に順位がつけられる。

 現存するホビー活動、スポーツ活動を調べてみて、上記に該当するものは模型飛行機、並びに自動車・船舶など動いて機能する模型以外にほとんどありません。ロボコンや、実物の飛行機・自動車・船舶などの競技は、用具の性能と操作技能の両方が評価される競技活動ですが、規模が大きく多数の人が分業で参画することになるので、ひとりの個人がホビーとスポーツの全体を行なう活動にはなりません。BOM式模型飛行機に似た性格の活動としては、F1自動車、アメリカズ・カップ(ヨットレース)、実機のエアレースなどがありますが、何百億の資金を投入して、多数の専門家が参画する巨大組織で行なう活動で、個人の余暇と資金で行なう遊びとは世界が違います。
 
            図3 アメリカズカップのヨット
      
    国単位でシンジケートを作り、多種・多数の専門家と巨額の資金が投入され、
    レースごとに最新の技術を投入した新艇を設計・建造し、乗り組みチームが
    熟成・習熟した状態で出場する。


 昔々、巌流島の決闘では、船の中で武器を設計・製作したBOM派の武蔵が、既製の道具を使った純粋スポーツ派の小次郎に勝ったことになるわけですが、以降は両方をわかりやすく区別する適当な例が見つからないのです。

人間は、本来は多能的な存在で、総合的に評価されるべきです。ちなみに、スポーツ分野だけに限定しても、オリンピック競技でクロウト筋が最高に尊敬するアスリートは、十種競技の優勝者であって、100mやマラソンのような個別の競技のトップではないそうです。

 FAI競技では緩和規定で許された場合も、自らのこだわりとして、あるいは武蔵が小次郎よりも有利であった故に、BOMを履行するモデラーも少なくありません。そもそも機体の製作は自宅の一室で行なわれますから、BOMは自己申告であり、立証が困難な紳士協定なので、緩和規定が出来る前も履行は「個人のこだわり」に依存していました。

 しかしながら、現実にはBOMの緩和規定が発効しており、操縦型模型飛行機のように飛行操作の重要性が格段に大きくなった機種も出現しました。その結果としてモデラーは、BOMの程度、つまりホビー活動とスポーツ活動の構成比を、自ら選択して決めています。個々人のやるところの「模型飛行機活動」は、夫々違っているのが当たり前で、百面相どころではない多様性を持っているのです。


2.ホビーとしての模型飛行機

「ホビー(hobby)」と言う言葉は、英和辞典を引くと「趣味」と和訳されていますが、英英辞典や英語の百科事典を引くと、より狭義で、「モノつくり」や「モノ集め(コレクション)」が原義のようです。ロジェ・カイヨワは「遊びと人間」の中で、チャップリンの「モダン・タイムス」的な単純労働の解毒剤として行なわれる、原材料より完成品に至る、楽しみのための無償の一貫作業と定義しています。模型飛行機を作る活動は、このような意味のホビーです。模型店・DIY店を、英語ではホビー・ショップと呼びますが、意味するところは上記のhobbyにほかなりません。

 模型飛行機が高度に商品化されて完成機が購入できるようになるまでは、飛ばして楽しむ前提条件として、機体を作らなければならないわけでした。完成機を購入して、飛ばすスポーツとして楽しむことができるようになった時期は、機種によってさまざまです。完成機が市販されてもそれに満足できないモデラーは居ますから、比率の増減はあっても自作(ホビー)派のモデラーは居なくなりません。

「バルサ革命」(第5回)で、模型飛行機は「特殊な軽量材料を主材にして、徹底的に軽く丈夫に作られた構造体」と定義しました。付け加えますと、その構造体は空気力学的に効率のよい形で、雨などの屋外環境に耐えられ、野外で整備や修理など取り扱いが容易で、公共交通によっても飛行場まで運びやすい・・・・など多数の制約条件がつきます。

 繰り返しますが、実物飛行機を作る航空産業は、多数の工業技術を束ねたもので、手法としては「何でもあり」なのです。模型飛行機の材料は、木、金属、布、紙、針金など雑多であり、それぞれの素材に適した工法を使わなければならないので、材料を特定した「木工」、「金工」などよりも複雑で範囲が広いと言えます。バルサ革命によって、主材料がバルサだけになった時期に工法が単純化されましたが、それでも金属や紙といった材料を扱う工程は除外できませんでした。

 最近は素材が再び複雑化する傾向にあり、複数種類のプラスティック材やその複合素材が大幅に導入されました。工法も再分割され、工具・接着剤なども使い分けが必要です。模型飛行機つくりはミニ大工(木工)だけでなく、経師・塗装・ミニ鉄工所・ミニ電気屋・・・・など、そして最近は各種プラスティック材の取り扱いまで、多種のモノつくり技能を少しずつ齧ってあるく活動なのです。

             図4 模型飛行機の製作
     


 モデラーの中には本職の技能者も少なくありませんから、プロのテクニックも導入され、普及します。航空機産業は多種の科学技術のピラミッドの頂点であり、模型機の場合も同様に無数のヒキダシが必要なのです。だから「模型飛行機を作っている」と称するモデラーが2人居た場合、行なっていることが全く違うケースもあるのです。


3.スポーツとしての模型飛行機

模型飛行機を飛ばす活動は「スポーツ」です。FAI競技に関しては、飛行機・グライダー・ハンググライダー・パラシュートなど、人が乗る実物と同列の規則書「スポーティング・コード」で管理されています。「スポーツ」と言う言葉は広義で、体育的な要素を含まない場合もありますが、ここでは常識的な野球・ゴルフ・スキー・マリンスポーツ・モータースポーツなどと同じ範疇のものとしておきます。末尾の二者は、道具の性能の比重が高く、調整・改造などの活動が含まれる場合があり、模型飛行機と同様なホビー/スポーツ複合体ともいえるのですが、道具本体から根こそぎ設計・製作する例は希少です。

 分業・専門化のメリットを追及し、飛ばすスポーツとして模型飛行機を楽しむ一派も居ます。競技では当然ですが、楽しみとして飛ばす場合にも、飛ばす活動に集中したほうが深く楽しむことが出来て、競技成績も向上するという考え方です。この一派によれば、模型飛行機は、ゴルフのクラブやスキーの板のようにスポーツ用具であって、高性能の完成品があればそれを調達し、自分はそれを使いこなす能力の向上に専念する方針を採ります。

            図5 模型飛行機の飛行
    
  左上より下へ、ゴム動力フリーフライト機、RC飛行機、RCグライダー(斜面飛行)
  右上より下へ、コントロールライン機の操縦/空戦競技、コントロールライン機 の飛行/
  スタント機、コントロールライン機の発航(チームレース競技のピットストップ)
     

 1940年ころからUコンやRC(ラジオコントロール)のような操縦型の模型飛行機が登場し、楽しみの大きさや競技成績に対して、機体を操作する活動の占める割合が大きくなりました。従って、前記のような考え方が強くなり、相対的に機体の製作(ホビー)活動の重要性は低下します。この一派を、スポーツ派・パイロット派・アスリート派などと呼びます。

 完成機やキットや完成部品を購入し、飛ばす活動に専念する方法を選択した場合、ホビー部分は大幅に簡略化できます。しかしながら、スポーツ部分だけをとっても多彩であり、一筋縄ではありません。競技種目によって、大幅な肉体的負荷の隔差があります。室内機や、RC機の操縦は、座業に近いのですが、飛行現場に一定時間居て、高度に集中した頭脳的・精神的作業が要求されます。

 同じ操縦型模型飛行機種目でもコントロールライン(Uコン)は、ハンドルについた2本の操縦用鋼索の先端に機体を取り付けて円周飛行させます。そのときにかかる遠心力は10G(ジー:重力の加速度;機体重量の10倍の荷重)くらいですから、普通の機体でも10数kgになります。大型機やスピード機の場合はその2倍くらいになりますから、この横向きの力を片手で支え、その手を動かして操縦するのは大変です。しかも、1~2秒で1週しますか、体を後ろに倒した姿勢で踏ん張りながら、上手にステップを踏んで体を回さなければなりません。さらに、チームレース、コンバット(空戦)など複数人の操縦者が同じ飛行円で飛ばす種目では、操縦索や身体の交錯・干渉が生じやすく、プロレスのような妨害行為は無いとしても選手は忙しくなります。

 非操縦型のフリーフライト種目では、発航後の操縦はしない代わりに、風に流される機体を追跡して次のラウンドまでに回収し、再整備しなければなりません。現行の規定では3分以上の飛行を7ラウンド行い、勝ち抜いたならばその後で2~3回の決勝飛行を行なわなければならないわけで、1回の飛行に使える時間は1時間ありません。

 普通の天候では、機体は5m/秒くらいの速さで流されます。ランニングが流行の咋今では、これくらいの速度で1kmを3分くらいで走れる人も居るとは思います。ところが、模型飛行機の追跡走行は平坦なトラックではなく、不整地で、崖・溝・肥溜めなどが隠れている可能性があります。しかも、機体を見失わないために長時間上空を目視する、アゴを出したフォームで走ることが必要です。加えて、田んぼで競技する場合は、あぜ道は風と並行ではなく、ジグザグに追跡しなければなりません。この場合、木や建物のような視界をさえぎる地物がありますから、事前に判断して上手によける必要があります。走るスポーツとしては、クロスカントリーやオリエンテーリングに近いようです。

 付け加えると、追跡と回収は付随的な活動であり、その前に天候などを判断して最適な発航を行うと言う、勝負として最重要な過程があます。種目によっては、曳航・ゴム巻きなど肉体的に負荷の大きな発航準備活動が要求されます。さらに、機体を回収して基地に戻ってから、次の飛行に備えて高度な集中を要する精密な整備作業を行います。

             図6 市販の競技用品
      
         左上:スキー、左下:ゴルフクラブ  右:RC模型飛行機

4.「BOM」と言うこと

 要するに、模型航空活動、つまり模型飛行機を「やる」と言うことは、ホビー(モノつくり)と、スポーツ(操作・運用)の対立二重構造なのです。モデラーを分解すると。ホビー派・スポーツ派・BOM派(自分で作って飛ばす、一貫活動)になります。

「BOM」は、上記の二重構造を定義する模型界の業界用語です。これは「Builder of the model」の頭文字で、規定書の全文を補足すると「競技参加者は<<BOM>>でなければならない」となっています。つまり、競技に参加するには自分が作った機体が必要で、購入した完成機、他人に作ってもらった機体では、ダメな訳です。機体の製作と、その飛行操作を、同じ人間が行ない、両方の技能の総合力を比べるのが、模型飛行機の競技であるという解釈です。

 第2回(英国紳士の遊び)で取り上げた草創期の競技では、模型飛行機などを販売する模型店は存在せず、参加者は必然的に上記のBOM制限を履行することになります。機体の製作者と、機体の飛行者は同じにならざるを得なかったのです。また当時は、ラジオコントロールなどの操縦型模型飛行機は出現していませんでしたから、飛行操作も単純で、滞空時間などの競技成績の違いは設計と製作の巧拙に依存し、飛ばし方による差はつきませんでした。

 だから、他人の機体を飛ばして競技で優勝しても、飛ばしたことによる功績は主張できませんでした。「良く飛ぶ機体を製作したから」競技に勝つことが出来たわけです。草創期の模型飛行機競技では上記の筋書きが当たり前であって、BOM条文が無くてもそれが実行されたと思います。

 後世になると優秀な市販完成機が出現し、操縦型模型飛行機が多数派になり、BOMが不文律ではなくなります。その結果、BOMは競技規定に明記されるようになり、現在のFAIスポーティングコード(模型航空競技の規定書)には、総則の先頭近くに記されています。だから、タテマエとしては全競技種目にBOM制が適用されるわけです。

 ところが、実態としてはほとんど全部のFAI競技種目の特別規定の先頭に、[BOM条項を適用しない]と言う条文があります。BOMは模型飛行機のやり方の理想型であり、精神的にはそうあるべきなのですが、現実に即していない場合が少なくないのです。BOMは、競技種目や、当該機種の発達段階によって必ずしも有利ではなく、キットや完成機など他人の工作物を飛ばす誘因が生じます。この問題については後述しますが、現実としては種目ごとの個別判断によってBOM規制を外す処置がとられました。

 現在時点でBOM条項が外されていない競技種目、つまり、自分で製作した機体でないと出場できない例として、スケールモデル(次回掲載)と室内機(第6回参照)があります。スケールモデルは、飛行性能・飛行技術よりも、実物機を縮小再現する工作技術の良否を競う種目ですから、自分で作った作品でないと意味がありません。また、室内機は、室内の乱れがない気流の中で行なわれる性能比較であり、機体の固有の性能がモロに現れます。

 同じフリーフライト競技でも、野外で飛ばす種目は、天候や気流に合わせて上手に飛ばす飛行技術が重要であり、理論上の高性能機が必ずしも勝つわけではないのです。だから、野外型のフリーフライト種目(F1A、B、C級など)には、BOM除外条項が加えられ、購入した完成機で出場することが認められています。

 ところが、人間には名誉欲・独占欲があり、出来得れば設計・製作・飛行操作の全てを自分で行い、成功の原因の全ての独占を指向します。また、全く新しいアイデアを導入して、在来の機体に大差をつけたいという夢があり、そのためには機体を自作しなければならないわけです。いずれにしても一人で専門家集団に対抗しなければならないので、現実にはきわめて困難ですが、夢としては無くならず、従ってBOM派は永続するものと思われます。


5.BOMに対する現在の環境

 草創期においては、完成機はおろか部品や材料も市販しておらず、材木屋・金物屋・洋服仕立屋・雑貨屋などを個々に漁って材料を集め、自分で模型飛行機を作らなければならなかったわけです。他方、飛ばす活動は未発達であり、飛行中の操縦は行なわれず、単純な操作しか必要とされません。従って、模型飛行機はホビー的な要素の比重が高く、競技成績に対する貢献度も高かったと言えます。

 時間の経過に伴ってホビー要素(設計・製作など機体の形を定める活動)もスポーツ要素(飛ばし方の技能)も進歩します。一般的には、ホビー要素のほうが進歩は早く、スポーツ要素は取り残されて未開拓分野が残ります。だから、長寿の競技種目は取り残されたスポーツ要素に研究の重点がシフトして、昔よりもスポーツ的な性格になります。

 モノの静的な形に関する情報は設計図や写真で固定・複製され、広く伝播されやすいのに対して、飛ばし方・飛び方・操作法などの情報は現場で盗まないと得られないので、拡散し難いというのがその理由です。だから、伝統の長い競技種目では最適の設計が煮詰められた結果、機体の形が固定化して、ホビー面の差異が無くなり、スポーツ面の巧拙によって勝負が決まる結果となります。

 操縦を行なわない自由飛行(フリーフライト)式の模型飛行機が飛ばされてから数十年後に、RCやUコンのような操縦型模型飛行機が登場しました。草創期は当然のことながらこれらもBOMであったわけですが、「操縦」と言う新しいスポーツ要素が加えられた形式ですから、従前の自由飛行型よりもスポーツ要素は多くなります。

 一口に「模型飛行機」と言っても、このように機種によってホビー的なものとスポーツ的なものがあり、いずれも時の経過によってよりスポーツ化する傾向にあります。他方、模型飛行機のもつ独特な楽しさには、ホビー要素とスポーツ要素の微妙なバランスが重要です。競技種目の拡大、機体の仕様制限の改廃などは、設計が固定化してホビー要素が減ることを修正する目的の活動でもあります。

 FAIや各国の模型飛行機統括団体などが、このような「ホビー要素増強活動」とでもいえる機能を果たしているという現実は、現況の流れがスポーツ化であることの証拠です。競技のやり方も、機体そのものの絶対性能を比較することに適した、失敗のやり直しを許して1回の最大記録を成績とするものから、多数回の記録の合計を成績とする耐久競技に変わってきています。後者のやり方だと、機体の持つ理論的最高性能よりも、操作(スポーツ)面を含んだ耐久性・確実性がかぎとなり、よりスポーツ化したといえます。


6.「ホビー/スポーツ選好場」におけるモデラーの選択

 模型飛行機の活動分野は、ホビー的な部分とスポーツ的な部分に分かれ、さらにたくさんの周辺分野に接しています。項目数だけで考えると、NASAと航空機メーカーと航空輸送会社と空軍のやっていること以上の数になりそうで、現実に全部に手を付けること不可能です。

 合理的なモデラーまたはその志願者ならば、そのうち何と何を組み合わせれば、自分の考えるような「楽しい模型飛行機」になるか選別し、それに適合した機種を選ぶわけです。ところが、やってみないとわからない場合が多く、相談を受けた先輩モデラーにしても自身が手探り状態です。せいぜい、ホビーとスポーツの選好場が存在して、どの機種がどちら寄りであるか位しか助言できません。

 それに、志願者にしても合理的な判断で模型飛行機を始めるよりは、一目惚れの片思いのほうが多いようです。模型飛行機の種類は無数にあり、それぞれが固有のホビー傾向・スポーツ傾向を持っています。それ故に、模型飛行機を始めようとする志願者ごとの資質や好みと、ミスマッチを引き起こす可能性が高いのです。

 一般のホビーやスポーツでは、それぞれのナワバリを越境するような活動はまずありませんから、やることはおおむね見当がつきます。野球をやるに当たって、「スイング時の空気抵抗を小さくするようなバットを、設計・製作せよ」と言うようなことは、普通ならばやらされないはずです。但し、アメリカでは普通でないことも起こったようで、MITでは空気力学屋がバットを風洞に入れて研究した結果、スイング速度を3~5%向上さ、飛距離を4~5m増やすことができたと言う記事が、Popular Mechanics誌に掲載されていました。余談ながらMITの野球部はカレッジ・ベースボールでは強いと言う話です。

 模型飛行機では、活動のナワバリの越境は日常のことで、バルサ革命以降も新しい素材や工法が求められ、金属の精機械加工、複合素材の導入などによって性能は大幅に向上しています。そもそも航空産業は数多くの科学技術の綜合ですから、その模型も同様で、それが単独でも一つの趣味を形成しているような多くの手法を束ねて利用し、さらにはその周辺領域まで取り入れる傾向にあります。

 このような分野は、「学際」に倣って「趣味際」と呼ぶことが出来ます。ちなみに現在の模型飛行機の多数派であるラジオコントロール機は、1930年代に、模型飛行機という趣味とアマチュア無線という趣味が、趣味際的に結合して相乗効果を上げた分野と言うことができます。「模型飛行機をやる」と言うことは、出発点からホビー・スポーツの複数路線であり、活動の過程で必要に応じて広く展開していきます。結果としてさまざまな隣接分野に越境して、新たに「趣味際的活動分野」を作り、きりが無いのです。

 後述する「模型航空気象」の分野は、モデラーが必要によって開発した気象学の応用分野で、サーマルを探し、予知する独特なテクニックや、地表付近の気象モデルが作られています。このような無限の拡張性を持つ活動ですから、「どこまでが模型飛行機活動なのか?」と言う問題は、簡単に回答できない難問です。この多義性も重要な「模型飛行機の顔」であり、別項でもう一度取り上げたいと考えています。



 

 

大村 和敏 (おおむら かずとし)
日本模型航空連盟

編集人より
大村和敏氏は元模型航空競技・ウェークフィールド級日本選手権者であり、模型航空専門誌にも寄稿されています。

         
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