一般財団法人 日本航空協会

航空遺産継承基金 ギャラリー 日本陸軍『航空写真帖』昭和8年5月

81/406枚目  画像ファイル名:Ka-089_p039-2.jpg

【オリジナルキャプション】
我国最初ノ飛行二関スル新聞記事 其二


本文は以下の通り。
「明治四十三年十二月十六日 東京朝日新聞 第八千七百四十六号 (五)
●飛行機中断す
▽百米突飛行して
▽降下の後顛覆す
今日こそは愈晴れに飛行の当日なり、寝坊して此好機を逸してやはと十五日午前六時早起一番睡眼を擦つて戸外に出づれば霜は白く屋上に置きて初冬の暁天拭ふが如く、朝瞼輝々として風和かに真に是飛行機日和なり、新宿停車場に電車を乗換ふれば折しも車中に山川、田中館の両博士あり、「如何だ今日も亦二十行程書く積りか」と田中館博士の皮肉例によりて骨を刺すものあり
▲竹田宮殿下御来臨
衛兵の誰何するに逢ひ通券一葉を示して場内に入れば遠く赤白の旗を以て境界を画せし埒外には陸軍各学校の学生、諸隊の兵士を初め一般観覧車既に堵を成して蟻の如く集る、格納天幕の外焚火を囲んで暖を取るは奥参謀総長を始め島川、林、田中、中村の各将軍及び横田、小川等の諸博士にして大中佐以下の剣光帽影の士に至つては一々指を屈す可からず、此時遙に白馬に跨り扈従一騎と共に臨場せられたるは竹田宮殿下の福田大佐を従えて高輪の御殿より御来着あらせられしなり、間も無くグラデ―、フアルマンの両飛行機より巨鳳の両翼を搏つが如き推進機運転の響伝はり来れば殿下は佩劔を握り駛走して両飛行機に就き徳永隊長の説明を聴取し給ふ
▲飛揚々々万歳歓呼
諸般の準備漸く整ひて午前十時十五分先づ前日来の試験に好成績を示したるグラデ―式飛行機を天幕外に曳き出し茲に愈飛揚実施に取掛る、双眼鏡を取出して遠く窺へば埒外の群衆首を伸べ眼を
りて遥に此光景を望見する様手に取つて見るが如し、円腰カーキー色軍服に深く頭巾を被りし日野大尉操縦位置に着きて栓を捻るや推進器は例の轟然たる響を為して廻転し軈て徐々滑走を始む、初めは間断なく微かに吹き続く北風に逆進して約三丁余を駛る、後より続く二台の自動車には徳永気球隊長以下数名の将校及び技師職工乗込みたり、姑くして観覧車堵列せし前を西方に折れて一旦停止したる後再び進行を続け這度は遠く白雪皚々たる富岳を目蒐けて西南方に向ひ更に東方に引返して緩き凹地に蒐りし時猛然として駛走の速度を加ふるよと見る間に双翼を張れる飛行器はフワリと中空に飛揚したり壮又快、拍手の響は一斉に観望将校の間より起り万歳歓呼の声は遠く埒外数万の群衆より伝はり来る
▲俄然顛覆して破損
一旦地上を離れたる飛行機は徐々昇騰すると共に東方に向つて進行を続けんとする如くなりしが此時風力稍加はりて少しく南方に吹き流され、操縦者は数回柁機を上下左右に転じて方向を維持せんと努むる模様なりしも遂に約三十秒の後降下して十米突程を
駛走せしと見る頃前方の車輪は深く地中に喰込みしものゝ如く高く土埃を揚げしが俄然飛行機は後方より持上りて筋斗打つてクルリと前方に廻転顛覆し中軸を折りて日野大尉は座席の外に抛り出されたり、驚倒したる観衆は驚破こそと許り直に駆寄りて仔細に点検したるに飛行機は降下の際練兵場を横切る道路の突起に衝突して其車輪を損じたるものゝ如く前方右側の護謨車はタイヤ破れ輻射の細線纏れ竹製の中軸挫折し推進器の刃歪みて哀れ無惨の形を止めたるも操縦者日野大尉は何等の異状無く其傍に佇立したり
▲顛覆破損の原因
▽徳永気球隊長談
徳永気球隊長は日野大尉を傍にしてグラデー式飛行機顛覆破損の原因に就き語つて曰く『本飛行機は
駛走後練兵場の西部より東部へ約千米突の飛行を為さん予定にて、出発点にては昇騰力七十五基あり凡そ二十米突の高さにて百米突程を飛行したる後尚徐々昇騰して目的地点に向はんとしたる時急に発動機の能力減少し折柄左方の凹地を渡り来りし強風の為に押下げられ左側より風を受けたるを以て右輪が地上の突起部に衝突破砕すると同時に左翼下に風を受くるに至りたるが故に甚だしく傾斜して前方凹地に顛覆したり、出発及び降下の際横風を受くる時は斯る状態に陥るものにして敢て失敗と云ふべきものに非ず、損所は車輪と柁機のみなれば数時間の後には十分修覆再飛行の見込なり』云々
●飛行前の飛行機
▽グラデ―式の飛揚
▽ファルマン式の滑走
代々木練兵場に於ける飛行機はいよ〱本日から飛行する筈である昨日は其試験及び準備に忙しく日野大尉のグラデー式単葉飛行機の如きは滑走試験中飛揚し大に見物の人々の注目を惹いた
▲ファルマン式
正午少し前練兵場へ行つて見ると徳川大尉は天幕の中のフアルマン式複葉飛行機に坐上して切りに発動機の試験をして居る六尺余りもあるプロペラ―は耳を聾する許り唸りを生じて廻つて居る飛び出さない様に五六人の兵がシツカリと押さへて居る然しプロペラ―の廻転は未だ馴れない為に全力を出すことが出来なかつたけれど徳永少佐は夕方迄試験すれば充分廻転すると云つて居た午後も引続いて何遍も〱も発動機及びプロペラ―の試験が行はれた、其中に田中館博士が来ていろんな事を云ふ上田師団長も見物に来た
▲滑走中の飛行
午後三時頃陸軍省から石本中将が数名の将校と共に自動車に乗つて遣つて来た今迄ピユーピユー吹いて居た寒い風も追々止んで来たので発動機の試験も既に充分出来て日野大尉のグラデ―式飛行機は滑走試験をする為に天幕から引出された見物は何も其方へ押しかけて行く日野大尉は毛絲で編んだ頭巾をスツポリと被つて飛行機に乗り数回地上を滑走したが何れも成績が好く時々飛行機は風の如く飛んだ最後の滑走に十数間の間三四間の高さを飛行した時は喝采破るゝが如く見物の心を躍らせた、日野大尉の語る處に依れば空中で一回転する積りであつたが何う云ふものか発動機の力が充分出なかつた然し明日は大丈夫だと云ふことである
▲複葉式の滑走
グラデ―式の滑走試験が終へぬ中にフアルマン式も天幕から現れたフアルマン式は既に人の知るが如く翼が二段になつた複葉式で発動機は五十馬力を有し全体の重量もグラデ―式に比すれば二倍ある従つてすべてが複雑で見た處も賑やかである最初は全力を出してプロペラ―の廻転して進む時は何れ位引張る力があるだらうかと云ふ試験をしたが矢張り発動機の馴ない為に五十馬力は出なかつた、勿論運転の馴るるに従つて五十馬力全部出るとは云ふ迄もない之が済むと直に滑走試験に取り掛つたが此時は既に日が暮て四面模糊次第に人の顔も見えなくなつたのっで僅一回にして中止することになつた
顛覆したるグラデ―式飛行機
(中央頭巾を被れるは日野大尉左方より二番目は徳川大尉)」



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