『陸軍航空写真帖』を発行した陸軍航空本部は、大正十四(1925)年に、従来の陸軍航空部を改編して設立された組織です。陸軍航空に関する事務全般がその業務でした
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『陸軍航空写真帖』は非売品で、当時の陸軍航空関係者の上層部のうち多くない人々に配られたものと思われます。一般の図書館での所蔵も少なく、例えば国立国会図書館では未所蔵のようです。ただ、昭和館、防衛研究所戦史研究センター史料室、靖国偕行文庫といった諸機関には所蔵されています。
『陸軍航空写真帖』は、このように限られた人々の手に渡ったもので、「知る人ぞ知る」写真帖だったようです。当協会での調査の結果、陸軍が撮影した写真のほかに、所沢の民間写真家だった喜多川秀男が撮影した写真があることがわかっています。また、『陸軍航空写真帖』の写真が『日本航空史 明治・大正編』や『戦史叢書第52巻 陸軍航空の軍備と運用〈1〉――昭和十三年初期まで――』といった初期の陸軍航空に関する基本文献に使用されていることが明らかになりました。
航空協会所蔵の二冊の『陸軍航空写真帖』
当協会では、二冊の『陸軍航空写真帖』を所蔵しています。それぞれ、細かい所に違いがあります。ともに航空ジャーナリストであった小森郁雄氏の旧蔵書(以下、小森本)と、郡捷氏の旧蔵書(以下、郡本)です。
小森本は、当協会が、航空ジャーナリストであった故・小森郁雄氏のご遺族から寄贈を受けた資料のうちの一つです。小森氏の入手経路は不明です。1ページ目には「小泉蔵書」と印が押されています。「小泉」が誰か調査しましたが、当時の陸軍航空関係者などに該当する名前を見つけることはできませんでした。小森本は、青い布表紙の装丁です。7ページの昭和天皇の絵と、69ページのソッピース1型、113ページの九二式戦闘機の写真が抜けているほかは状態が良いため全ページをスキャンし、今回の公開の底本としました。