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財団法人日本航空協会航空遺産継承基金
設立趣意書
2004年7月1日
財団法人 日本航空協会
会長 利光 松男
20世紀は「航空の世紀」
後世において、20世紀が「航空の世紀」と呼ばれることは間違いのないところでしょう。それは、単に人類が2次元から3次元へと飛躍する新たな空間を手に入れただけにとどまらず、航空機が多方面で人々の生活に及ぼした影響の大きさを考えれば、当然のことと言えます。
航空機が材料や製造技術も含めその時代の最高水準を示す工業製品であること、つまり先端技術の証しとしての遺産であり、また、明治以降の近代化、特に機械工業化の集大成といってもよいことは、多くの方々の一致した認識であると思います。一方で、敗戦によりかつての航空産業を中心とした産業形態は変化しましたが、今日のわが国の技術立国としての地位を築き上げる中心となった自動車を始めとする多くの関連産業にとって、それまで航空産業に従事した技術者や技術そのものが多大なる貢献をしたことは多くの方々の知るところです。以上のような経緯を振り返ると、航空関連遺産が、わが国における近代の文化遺産の中で主要な位置を占めることは間違いありません。
しかしながら、わが国では残念な事に近年まで、航空遺産は文化財であるとの認識がほとんどありませんでした。
航空遺産が直面する問題
航空を含むいわゆる近代の文化遺産を文化財とみなし、保存し活用する本格的かつ具体的な取り組みがわが国で始まってから、わずかに10年にすぎません。そのため、航空博物館を始めとする専門機関等においても、混乱や理解不足が見受けられます。中でも大きな問題は、写真や紙資料等を含む貴重な資料群が急速に失われつつある事です。
かつての航空躍進の時代をともに過ごし、その重要性を認識して関連資料を保管されてきた関係者やご家族のご逝去などにともない、近年貴重な資料が散逸しつつあります。それにも増して散逸の根本的な原因は、それらが航空機そのものに劣らず、航空文化を後世に残す重要な資料であると共に、技術立国日本の将来の発展に向けて重要な鍵となる物であることが、広く一般に認識されていない事にあります。そのため、保存・継承の対象となる事も少なく、また、せっかく収集された資料も、その情報の活用のみにとらわれ、貴重なオリジナル資料を傷めてしまう例も数多く見うけられます。
何故「航空遺産」を残すのか
わが国における航空の発展が単に欧米の模倣だけで達成されたのではなく、それ以前の江戸期から連綿と続く「モノづくり」の伝統に根ざしていたという事実は、航空黎明期からの資料をきちんと収集・検証することにより、初めて理解することができます。また、戦後わが国が科学技術立国への道を模索し急速な復興発展を遂げる中で、いかにそれまでの航空関連技術が役立ったかも、一連の関連資料を保存してこそ後世に伝えることができます。
現在急速に失われつつある航空遺産を、正しく評価し収集・保存・公開することは、単にわが国の航空に関する歴史、航空文化を残すことにとどまらず、21世紀も科学技術立国を目指すわが国にとって重要な基本財産となることでしょう。
近年、わが国の文化財保護の取り組みも変わりつつあります。従来は社寺や博物館などが所有する宝物や建造物が主なる保護の対象とされてきましたが、さまざまな社会変動を経験したことで新たな価値の認識が生まれました。その結果、2005年度からは航空遺産を含む近代の文化遺産が保護の対象となり登録できることになりました。
「航空遺産継承基金」の目指すところ
航空遺産というと、多くの方々は航空機を想像することでしょう。しかしながら、航空機単体では広く航空全般に関った人間の営みを十分に後世に伝える事は出来ません。本基金では航空(宇宙の分野も含む)に関する歴史的遺産全般、すなわち関連する生産設備・施設に始まり、道具・機械などの労働手段、製品、それらの模型・復元物、記念碑などの他、絵画・図面・写真・映画フィルム、産業に従事した人々の体験・意見などの聞き取り記録などにいたるまで、広範囲のものを対象として収集・調査・保存・公開して行く事を目指します。
しかしながら、以上のような広範囲にわたる膨大な航空遺産に対し、日本航空協会単独で取り組む事は不可能です。したがって、全国の航空博物館を始めとする専門機関等のご協力を仰ぎながら、先ずは写真および紙資料への取り組みを始めます。
当基金が、わが国における航空遺産保護の一端を担う事が出来れば幸いです。
2004.10.8設置