最近、日本の色々な分野で、安全性に関して世の中を騒がすような事故が頻発している。
事故の調査が進み、真相が究明されるにつれて、その原因が人間に関連して発生しているとの報道がなされ、「ヒューマンファクター」という言葉が注目を浴びている。
しかし、「ヒューマンファクター」とは、航空界では以前から使われてきたが、さて改めて厳密に何のことかと問い直しみると、管理者にとっては「現場における当事者のたるみと愚かな行動」と、組織が蒙る迷惑な人間要因の代名詞として使われることも多い。
システムが動いている「ファクター」というからには、他のファクターもあるはずである。事故、災害のファクターとして一般的なのは、KLM航空のホーキンズ機長の分類したSHELモデルである。
Live ware |
人間要因。システムの動きの中心となる人間。航空機ではパイロットであり、装置産業では中央操作室の運転員である。 |
Soft ware |
ソフト要因。規則、手順書、コンピュター・プログラムなどである。 |
Hard ware |
機械要因。航空機、電子機械、装備、装置などである。 |
Environment |
環境要因。気象状態、飛行形態、時差などの要因である。 |
Live ware |
今一つの人間要因で、監督者、管理者である人間である。 |
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東京電力では、さらに判り易く、Managementの襷を掛けさせ、m-SHELモデルを提唱している。
このモデルには、丁寧に三つの「ヒューマンファクター」が、異なる特性を持つとして、別個に挙げられている。二つのLive ware と一つのManagementである。安全を保つためには、上記の諸要因が巧くバランスを取って、それぞれの機能を発揮していなければならず、そのバランスが崩れると事故になり、災害が発生する。
しかし、このモデルは現場での直接要因の分類としては良いが、事故防止のために背後要因を究明していくと、機械やソフトは人間が考え出し、創り上げたものであり、環境も人間が作ったり、規定したり、予報出来るものである。とすると、人間が作り出したシステムの事故は、人知の及ばない現象を除いて、全て「ヒューマンファクター」に関連して発生していると言ってもよかろう。このことは、逆に全ての事故を人間が防止出来るはずであると考えても良いこととなる。
ヒューマンファクターの定義は色々あるが、わが日本ヒューマンファクター研究所では次のように定義している。
「機械やシステムを安全に、しかも有効に機能させるために必要とされる、人間の能力や限界、特性などに関する知識の集合体である。」
この定義には、現場の人間だけでなく、管理者、経営者、行政。ソフト・ウエアを作った人。ハード・ウエアの設計、製作、設置。整備、保守・補修。航空交通管制や航空保安などの運用に携わる人など、全ての作業に関連する人間要因を包含していると言えよう。
東京電力のm−SHELモデル
くろだ いさお、日本ヒューマンファクター研究所 所長
日本は世界一安全な産業社会であるという信仰にも似た自信がこのところ、いろいろな分野で崩れにかかっているように感じます。そんな不安を、ヒューマンファクターの黒田 勲 先生が冊子版「航空と文化」において解説されています。
2001年春季号から2003年夏季号までの10回シリーズで掲載された内容をご紹介いたします。ご一緒にヒューマンファクターを考えていきましょう。 (編集部)
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