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MRJを世界の空へ
~ Flying into the future ~


三菱航空機株式会社技術本部副本部長
佐倉 潔

*本記事は『航空と文化』(No.108) 2014年新春号からの転載です。
2014.3.25
 
     
 
 現在、三菱航空機が開発を進めているMRJ(ミツビシリージョナルジェット)は、50年ぶりの国産旅客機開発として、多くの皆さんの期待と応援を頂いている。ここでは、国産初のジェット旅客機MRJの概要を紹介する。

MRJのビジョン

 これから拡大が期待されるリージョナルジェット(100席以下/地域運航用の旅客機)の市場に、新しい価値を提供するために、MRJは図1のようなビジョンを掲げている。乗客には幹線機と同様の快適な客室を、環境には優れた燃費・低騒音・低排出物を、エアラインには高い信頼性と優れた運航経済性を提供することをセールスポイントとしている。
 
 
図1 MRJのビジョン


 
   MRJは90席型のMRJ90と70席型のMRJ70を計画している(図2)。MRJ90は全長約36m、全幅約30mで(図3)、戦後初の国産旅客機YS-11とほぼ同規模、B737やA320より若干小さい機体サイズである。  
   
 
図2 MRJの機体規模


図3 機体三面図
 
 

日本の航空機開発─MRJへの道

 MRJ開発に至る日本の航空機開発の流れを三菱の関係した航空機を中心に図4にまとめる。1920年代に始まった三菱の航空機開発は、第二次大戦中は零式艦上戦闘機、一式陸上攻撃機等を開発し世界一流レベルに到達したが、戦後の航空機開発中止命令による空白期で世界に遅れることとなった。そのため戦後は、戦闘機ではF-86Fに始まる航空機ライセンス生産、T-2練習機、F-1、F-2戦闘機の開発、民間機ではB767、B777、B787等の大型旅客機の国際共同開発、YS-11国産旅客機の開発、MU-2、MU-300ビジネスジェット機開発等を行い、開発技術力を蓄積してきた。これらの開発で蓄積された航空機開発の技術力がMRJの開発に繋がっている。
 
 
図4 日本の航空機産業
 
 

MRJの先進技術

 MRJに適用する先進技術を図5に示す。
 それぞれの技術要素の概要を以下に述べる。
 
 
図5 MRJの先進技術

 
   図6にMRJの客室断面を示す。幹線機並みの快適性を実現するために広いヘッドクリアランス、フットクリアランスを実現している。幹線機で持込み可能な手荷物をMRJ機内に持ち込めるよう大型オーバーヘッドビンを設置している。図7にMRJキャビンの特長である、スリムシート、LED照明、内装、大型の窓を示す。リージョナルジェットに適したスリムシート等の最新技術により幹線機並みの快適性を実現している。  
 
図6 客室断面の比較


図7 乗客にやさしいキャビン

 
   図8にPratt & Whitney社のGTF(Geared Turbofan)エンジンと従来のターボファンエンジンの比較を示す。GTFでは、エンジンファンをギヤで減速することによりファンの大口径化、およびファン、タービンそれぞれの最適回転数による運転を可能とし燃費を向上させている。MRJでは、このGTFエンジンを採用し、排出物、騒音も同時に低減させる。  
 
図8 GTFエンジン

 
   図9にスーパーコンピューターを用いた先進空力設計の例を示す。計算機技術の発達による機体周りの複雑流れ場解析、全機解析により、機体空力抵抗の低減が実現されている。さらにCFD(Computational Fluid Dynamics)と最適化技術を組み合わせることにより、時間と労力のかかる風洞試験を実施しなくとも、形状最適設計が可能となった。  
 
図9 スーパーコンピューターを用いた先進空力設計

 
   図10にMRJに採用されている先進フライトデッキを示す。MRJのフライトデッキは幹線機B787と同等の4枚の液晶ディスプレイを配置し、必要な情報を必要な時にパイロットに提供する。これによりパイロットの状況認識性を向上させ、パイロットワークロードの低減に寄与し、運航の安全性を向上させている。  
 
図10 先進フライトデッキ

 
   図11にMRJの複合材の適用状況、図12に低コスト複合材技術A-VaRTMの概要を示す。これにより軽量かつ低コストな機体を実現する。A-VaRTMとは、図12に示すように、Advanced-Vacuum assisted Resin Transfer Molding の略称であり、従来の炭素繊維強化複合材がプリプレグと呼ばれる炭素繊維とエポキシ樹脂を混合した中間基材を必要とするのに対して、樹脂と炭素繊維からダイレクトに最終製品を成形する手法である。  
 
図11 MRJへの複合材の適用


図12 低コスト複合材製造

 
   図13に燃費がもたらす優れた運航経済性、図14に排気ガス基準への適合を示す。MRJでは前述したCFDを適用した空力設計、新型GTFエンジンの適用等により燃費の低減、環境負荷の低減を図っている。
 
 
図13 MRJの優れた運航経済性


図14 少ない排気ガス

 
   図15にMRJの騒音の低減状況を示す。同図は、ヨーロッパの代表的な空港(アムステルダム国際空港)の離陸時に地上に到達する騒音レベルについて、既存のリージョナルジェットに対して、MRJの推定値を比較したものである。MRJにおいて地上に到達する騒音レベルが格段に低減される様子が確認できる。これにより空港周辺の住民環境に対する騒音の影響を低減している。
 
 
図15 MRJの静粛性

 
   民間旅客機を世界に出すためには、これらの先進技術を適用して機体を開発・製造することに加え、安全性を規定した法律要件(レギュレーション)に適合していることを証明することが、非常に重要であることを、申し添えたい。
 世界各国のエアラインへの販売を目指すMRJは、日本の航空局のレギュレーションに加え、関連当局であるアメリカFAA及びヨーロッパEASAのレギュレーションへの適合性を同時に証明する。
 この過程も、新しい技術開発に匹敵するほど、重要かつ時間を要するものである。

MRJの販売状況

 MRJは、燃費や居住性などの先進性を評価され、現在まで325機の受注を得ている。現在までの受注状況を表1に示す。製品としての航空機は直接リージョナルジェットを運航するエアラインを対象としているが、実際の販売先はそのエアラインの親会社であることも多い。
 
 
表1 受注状況
  確定 オプション
ANA 10 15
Trans States Holdings 50 50
SkyWest, Inc. 100 100
Total 165 160
325
 
 

開発状況 

 本原稿の執筆時点で、MRJの試作1号機の胴体各部位の構造組立が終了し、三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所の小牧南工場にて、最終組立作業が急ピッチで進められている。図16は飛島工場にて分割して組み立てられた胴体の各部である。
 2015年に予定されている初飛行、そして、その後の客先への納入に向けて、引き続き開発作業を推進していく。
 MRJの開発事業推進にあたっては、国内外の各方面から有形・無形の協力を頂いている。この場を借りて各方面に御礼申し上げたい。
 
 
図16 胴体組立の状況
 
  (おわり)   
 

三菱航空機株式会社技術本部副本部長

佐倉 潔 (さくら きよし)

 
 
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