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いつかアメリカのホームビルト機製作ドキュメンタリー番組をTVで見ましたが、自分で飛行機を作り自分で飛び、主人公が「この楽しさは他に無い」と語る。その「Supremely
Happy」という響きはいつまでも忘れられないものでした。
航空史の中で最大出力25馬力の飛行機というのはどんなものかなと、探してみました。歴史上の名機を比較に引き出すのはおこがましいのですが「馬力のこと」に限って言えば、約100年前の1909年7月、英仏海峡を初めて横断した「ブレリオXI」がありました。「ブレリオXI」は私のFP-303よりも3メートル程度胴体が長い単葉一人乗り、アンザニ空冷扇型の3気筒25馬力エンジンを装備 した飛行機でした。 重量がFP-303の1.5倍近くになる「ブレリオXI」がドーバー海峡を渡った時は、エンジンのオーバーヒートなんかを心配しながら大変だったのかなーと想像することが出来て、こんなことも楽しみの一つです。ちなみにこの「ブレリオXI」は現在も飛行可能なオリジナル機がイギリスのベッドフォード村の近くシャトルワース・コレクション(Air Museum)で見る事が出来ます。 ULPの構造はアルミ管又は鋼管で組み立てた骨組みをダクロンの袋でカバーした翼と胴体、または骨組みのままの胴体という機体が多いのですが、私が製作したFP-303は全木製・羽布張りの機体で、大きなラジコン模型みたいな飛行機と言えない事もありません。 このフィッシャーFP-303の構造上の特徴は”Geodetic Construction”/大圏構造です。軽くて丈夫な網目のような骨組みの構造は第二次大戦中のイギリスの爆撃機ヴィッカース・ウェリントンに採用されていました。もっともウェリントンの方は金属製の細い素材を籠状に組んだものでした。 Geodetic ConstructionのFP-303 後方は自作の格納庫、兼製作作業場 FP-303の設計者はアメリカのWayne Isonという人で、この飛行機は1982年に初飛行しています。機体キットとしてFisher Flying Products社から販売されて、アメリカの月刊誌KITPLANES Dec.2008のデータによると180機が売れています。 このWayne Ison氏は後にIson Aircraft社(現在TEAM Aircraft)を作ってMini Maxなどの飛行機を設計製作、それらもキットとして販売されています。また彼は2000年の「EAA Ultralight Hall of Fame」に選ばれアメリカのウルトラ・ライト機の発展に対して大きく寄与した事で表彰されています。 このフィッシャーFP-303は「機体キット」と言っても、設計図と素材だけの「材料キット」です。主要構造も細かい部品も全て素材からの手作りで、プラモデルのように簡単に組み立てが出来るものではありませんでした。 それでも航空機用Plywood(薄くて軽く高強度のベニヤ板)、 Spruce(北米ヒノキで、軽くしなやかで加工し易い:柾目が通り間隔が狭いもの)、 アルミ材(2024や6061の Aluminum Tube, Angle, Channel, Bar および Sheet)それからAN Bolt, Nut, Cableなど色々な規格とサイズの航空機用正規(米・MILスペック認定)材料を自分で一機分買い揃えることは大変な事で、この種のキットを利用することは何と段取りの良いことかと思います。 またキットに準備された材料を図面のとおり測って・切って・接着、これを繰り返し、組み立てていくと最後には小さいけれど本物の飛行機になるのだから素晴らしく、まずは図面とにらめっこです。守谷飛行場の片隅の格納庫では空調設備はなく、温度も湿度も外気のまま。そのため製作工程は季節と天気を選んで進めるしかありません。特に強度を要する構造部位の製作は良く晴れて、気温も適当な季節に行います。数年間に渡って作業内容が気候と調和する様に製作スケジュールを工夫しました。 ○尾翼の製作 製作は簡単な尾翼から始めます。 水平尾翼、前縁を製作中 骨組みが完成した尾翼と胴体、格納庫天井に吊って保管 ○木製機の耐久性について 木製機の機体構造の接着組み立てはエポキシ接着剤を用いて行い、誰がやっても簡単で元の木部より強い強度が得られます。そして機体構造には組立てが完成した後もう一度胴体、主翼、尾翼を外して別々にエポキシ・ニスを塗ります。ニスを浸み込ませて塗り込むことで木を完全に外気からシールしてしまうのでFRP(Fiber Reinforced Plastic)ではありませんが木の繊維がエポキシで強化されたものです、しなやかで丈夫、錆びない、疲労しないなど強度、耐久性についての心配はありません。(とは言え、定期的な点検は欠かせません。) ○胴体と主脚の製作 胴体は四隅にスプルースの縦通材(ロンジロン)が前面のFire Wallから尾部まで通るという構造です。 胴体前方は航空用プライウッドで囲まれた箱構造をとり、後はGeodetic Constructionとなっています。 胴体は作業台兼治具の上に敷かれた原寸の図面上で製作、 左右別々に製作した胴体を胴体枠で結合します。 (上下逆さにした、胴体上面がこの機体の基準線となります。) 基準となるベニヤ板に鉛筆でケガいた線に合わせ慎重にアルミ tube(6061-T6)の角度・長さを決めて主脚の組立を進めます。 各種のFittingはアルミのAngle材,Channel材から一つ一つ切り出し、 ヤスリがけして製作します。 (正確に穴あけする為の卓上ボール盤以外は全てHand Toolのみで可能) 組みあがった胴体に脚を仮止めしたところ ○主翼の製作 主翼の組み立ては、やはり簡単なリブ(翼断面をした構造体)作りから始めそれから主桁(Main Spar)作りです。主桁は約4mのスプルース材を上下のキャップ材にして、プライウッドのSpar Webが入る“Ⅰ- ビーム”構造です。 主桁の製作 作業台はラワンベニヤ2枚で4.8 m x 1.2 mの大きさ。作業台を水平にする為、 足場用のパイプを利用して微妙に調整。(作業台の水平は重要) 治具:真直ぐな主桁を作る為にAluminum Angle材(建材用)をガイドとして利用 主翼主桁のストラット Fittingが取り付け部位に Bolt-Holeを開けている。 小さな卓上ボール盤が、正確に(桁に垂直)な穴を開けるため活躍 ○必要な工具 この機体Kitは「特別な工具は不要」とのうたい文句で、実際使用した工具は卓上ボール盤や電動ドリル、普通の木工工具、プライヤー、レンチ、ドライバーなどでした。機体のペイントの為、スプレーガンと充分な容量のタンクを備えたコンプレッサーが必要になり、友人から借り受けて塗装しました。 作業台の平面の狂いはそのまま主翼の曲がり、捩れになるので 作業台の水平は重要 右主翼の胴体付根はのリブはWing Walkの為に補強されている (Wing Walk - 飛行機に乗り込む時に足をかける部分 – 右主翼のみ) エルロンの製作 一旦、組み立ての終わった主翼から切り出す 作業台と足場パイプを利用して胴体と主翼を結合するアラインメントを 正確に出す。 主翼を水平(上反角は5度)に置き胴体尾部を持ち上げ2.3度の迎角を 設定する。 左右の主翼が直線、胴体と主翼が直角になるように水糸を張って確認する ○ニス塗り 前述の通り木製機の機体構造は組立てが完成した後、エポキシニスを浸み込ませ、塗り込むことで木を完全にシールしてしまうのでFRP(Fiber Reinforced Plastic)ではありませんが木の繊維がエポキシで強化されたものです。 Wood - FRP(wood-Fiber Reinforced Plastic)とは少し言い過ぎですが、しなやかで丈夫、錆びない、疲労しないなど強度、耐久性についての心配はありません。 主翼をロープで吊ってニス塗り 一回目は多目のシンナーで薄め、エポキシを木によく浸み込ませます。 二回目のニスで木製構造は充分にシール完了です。 胴体、尾翼ニス塗り ニス塗りから始まり、羽布貼り、下塗り、そして仕上塗装の工程 は一貫 して米国POLY- FIBER社の材料とマニュアルに従って仕上げました ○主翼の取り付け 木製構造の基本各部品が完成して、いよいよ胴体に主翼を結合します。主翼の主桁と後桁を胴体にボルト結合し、翼の揚力を機体(胴体)に支える為の一本のストラットを主脚の車軸に繋げます。 正確な上半角を得る為慎重に計測中、ストラット長さをここで決める 機体の基本構造の完成 飛行機の形になって初めて格納庫の外に出す 2004年12月 製作はここ迄で4年経過となりました。 続く 石原 能行 (いしはら よしゆき) |
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