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ヒュ−マンエラ−とは  
-ヒューマンファクターを考える(5)-
黒 田  勲
2006.07.15
   
   
  失敗続きであった将来の日本の宇宙開発の期待を担って、2002年2月4日、11時45分、HUA 2号機が種子島宇宙センターから打ち上げられた。ロケットの打ち上げは成功し、民生実用衛星「MDS-1」の分離は成功したが、高速再突入実験機「DASH」の分離には失敗した。失敗の原因は、衛星分離メカニズムの製造図面のコネクター部分にあった配線ミスである。

 納入時検査では製造図面どおりかどうかだけを検査をし、動作試験時には別の試験用コネクターを使用したため気付かなかったと報じられている。
どんな優秀な技術者やパイロットであろうと、人間である限りエラーを犯すことがある。

 しかし、「エラー」という言葉は、どうも「注意すべきことをボンヤリやっていた」、「たるんでいた」、「間抜けの行動」、「緊張感に欠ける」などなど、既に悪いという価値評価を含んだ意味で使われている。

 ところが、権威ある日本語辞典の大言海(大槻文彦、昭和七年)には、「誤り」という言葉は、次のように書いてある。

「傷害(アヤ)ムル事ヲ、自ラ、シデカシタル意ニテモアルベキカ、ソレト心ヅカデ、アラヌコトヲシタルナリ

一、為(シ)タルコト、理(スヂ)ニ外(ハズ)ル。マチガウ
二、病ニテ、心乱ル」

 どうも日本語の「誤る」という意味は、「ソレト心ヅカデ」とあるように、うまくやろうとしたけれども、心ならずも悪い結果になってしまったことを指すようで、悪意や故意に基づく行為ではない。本来人間の基本特性の中に「エラー」という特性はなく、周りの環境との不適合を表わす言葉である。だから「エラー」の定義は、次のようにされている。
「達成しようとした目標から、意図せずに逸脱することとなった、期待に反した人間の行動」

 具体的なエラーの形態としては、前述の知識レベル(初心者)の行動として、「いちいち考えながら行動するからぎこちない」、「注意が一点に集中して周囲が見えない」、「操作が何時も遅れる」、「一生懸命やろうとすると反って巧く行かない」、「焦るとメタメタになる」などが多い。

 ついで、規則レベル(ある程度の技能者)の行動では、「少し自惚れる」、「知ったかぶりをしたがる」、「自分勝手にやって、失敗する」、「思い込みが多くなる」、「手順の改善をして失敗する」などである。

 熟練レベル(ベテラン技能者)の行動になると、「自分の腕に過剰な自信を持ち始める」、「鼻唄まじりで仕事が出来て、ポカミスをする」、「思い込みが強い」、「他人のアドバイスを聞かずに失敗する」、「いろいろ工夫、改善をして失敗する」など、「信じられないミス」はこのレベルの行動に多い。


 人間のエラーの多くは一所懸命やって失敗しているものが多く、その背後にエラーを誘発させるいくつかの要因が図のように、連鎖をなして繋がっている。エラーを防止するためには、背後の誘発要因に対策を講ずる必要があり、それを可能とするためには安全文化の構築が必須である。宇宙開発事業の今後の研鑽を望みたい。

図 エラーを誘発する背後要因の連鎖


くろだ いさお、日本ヒューマンファクター研究所 所長

冊子版「航空と文化」2002年春季号より転載

 
         
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