解 説 |
X1G1B高揚力研究機のベースとなったサーブ91サフィールはスウェーデンのサーブ社が開発し、1945(昭和20)年に初飛行した小型練習機である。スウェーデンとオランダで計323機が生産され、練習機や連絡機として各国で使用された。エンジンや装備の違いによりA型からD型までのサブタイプがある。
日本には、1953(昭和28)年に当時の保安庁(現・防衛省)の初等練習機候補としてB型(製造番号91−201)が1機輸入され、1956(昭和31)年に防衛庁技術研究所が高揚力装置実験のために購入した。その際、民間登録(JA3055)が抹消されて同研究所がTX−7101の記号を与えた。
技術研究所ではフル・スパン・フラップとスポイラーを装備した新設計の主翼を装備した機体にX1G1という名称を与え、1957(昭和32)年から飛行試験を始め有効性を確認した。さらにその後、フラップ上面に高圧の空気を吹き出して揚力を高めるシステムを採用した主翼と、翼端渦制御によって高揚力装置の操縦性の問題を解消する試みを行った主翼が本機で実験され、それに合わせて本機の名称もX1G2およびX1G3と変化した。1962(昭和37)年に研究機としての役割が終わると、再びX1G1の主翼が装着されて、エンジンが換装されていたことからX1G1Bという名称となり、連絡機として使用された。1985(昭和60)年度に用途廃止となった後は防衛庁技術研究本部岐阜試験場内で保管され、1996(平成8)年のかかみがはら航空宇宙博物館(当時)の開館時より同館に展示されて現在に至っている。
本機での実験により得られた知見と技術は、C−1輸送機、PS−1飛行艇、MU−2ビジネス機に活用されたことから、本機のわが国の航空技術開発への貢献はきわめて大きいと考えられる。特にフラップ上面に高圧の空気を吹き出す技術は、UF−XS実験飛行艇を経て最新のUS−2飛行艇まで引き継がれている。また、博物館の収蔵に当たっては劣化の進んでいた外部塗装を部分的に補修した以外には手を加えられておらず、研究機だった当時の痕跡も含めて使用時の状態をよく保っており、文化財的価値も高い。
これらのことから、防衛省技術研究本部が所有し、かかみがはら航空宇宙科学博物館が保管・展示するX1G1B高揚力研究機は、我が国の航空機開発の歴史を伝える極めて貴重な航空遺産であると考えられる。
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