MRJ ロールアウト ~ Flying into the future ~

 2014年10月18日土曜日、その日は日本の航空産業にとって記念すべき日となりました。青空のもと、国産初のジェット旅客機MRJがロールアウトしたのです(図1)。
 本稿では、そのMRJロールアウト式典の状況を紹介し、加えて、MRJの開発状況と今後について概括します。なお、MRJの機体の概要については、No.8号の記事をご参照下さい。

2014年10月18日MRJロールアウト式典

図2 三菱重工業・大宮会長の挨拶

図2 三菱重工業・大宮会長の挨拶

 ロールアウト式典の会場となったのは、MRJ開発の飛行試験に向けて、新しく建設された飛行整備格納庫です。県営名古屋空港に隣接する三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所小牧南工場に作られた、真新しい格納庫。
 そこに、日本のみならず世界の各地から集まった御来賓が参列する中、午後2時、式典は地元豊山町の小学生による「大空賛歌」の合唱と和太鼓のパフォーマンスで幕を開けました。
 続いて、三菱重工業・大宮英明会長の挨拶。「旅客機におけるメイドインジャパンは長らく途絶えていた。国産旅客機の開発は、三菱の夢、そして日本の夢。開発に関わる皆さんの情熱が融合して、世界に誇れるメイドインジャパンの製品がようやく夢から現実になった。その美しいMRJの雄姿をお披露目し、夢が現実へと変わる瞬間を分かち合いたい。」(図2

 そして、参列者の目の前の大きなスクリーンに映されるMRJ開発のこれまでの足跡。
 再び、和太鼓と笛の根が格納庫に響き渡ると、スクリーンの中央から明るい光が差し、スクリーン背後の格納庫の大扉がゆっくりと両側へ開き始めました。
 そこにはトーイングカーに牽引されたMRJ試作第1号機の姿がありました(図3)。すると、両側に開いた大扉の向こうから、白いジャンパーに身を包んだMRJ開発に携わる三菱社員たちが入場し、正面で参列者に一礼した後MRJに道を開けると、トーイングカーの絶妙なステアリングでその美しい機体は格納庫の中に滑り込み、参列者の間近に機首を停止させました。鳴り響く太鼓と笛の音が、新たな時代の幕開けを感じさせる中、MRJ試作第1号機が初めて公開された瞬間です(図4、5)。
 会場に参列した誰もが、まさしく息を飲むほどの美しい機体がそこにはありました。

 

 機体の左舷側、主翼前縁付近に設置されたステージに、御来賓と共に三菱重工業・大宮会長、三菱航空機・川井社長が登壇します。3名の御来賓、国土交通省副大臣・西村明宏様、経済産業省製造産業局長・黒田篤郎様、ANAホールディングス社長・伊東信一郎様より、順番に御祝辞を頂きました。そして、3名の御来賓に、大宮会長、川井社長より、MRJ特製のロールアウト記念の白いジャンパーが、進呈されました(図6)。
 最後を締めくくったのは、開発の主体となる三菱航空機の川井社長の挨拶。多数の御来賓、そして心のこもった激励の数々への感謝の言葉とこれからのMRJ開発への決意を述べて、式典を締めくくりました。「皆様方から頂戴した心のこもった温かい激励のお言葉を胸に、これからもこのMRJ開発に向かって邁進していく。」(図7)

 参列者は、御来賓、招待者、メディア関係者の方々を合わせて約600名。
 式典は予定通り30分で滞りなく終了しましたが、引き続き行われたフォトセッションでは、御来賓の方々の記念撮影や、三菱関係者やエアラインからの参列者に対する機体のまわりでの取材が、予定の時間になっても終了せず、終了を知らせるアナウンスが何度も流れました。関係者のMRJに寄せる関心と期待の高さがうかがわれました。

今後の開発予定

 ロールアウト式典を終えたMRJ試作第1号機は、再び三菱重工業小牧南工場の製造格納庫に移動し、飛行試験に向けての艤装及び地上試験を実施中です。本年に予定されている初飛行に向け、開発現場は急ピッチで作業を進めています。
 機体の各部・各系統の確認、地上での各種技術試験を経て、地上走行試験、そして初飛行へと進む計画です。
 試作第1号機に続き、開発飛行試験のために、合計5機の試作機を製造する予定です。各号機は、約2年にもわたる多数の飛行試験を、試験内容によって分担して、効率的に試験を実施します(図8)。

 MRJの飛行試験は、県営名古屋空港にて開始し、一部は、米国ワシントン州のモーゼスレーク空港を拠点として実施する予定です。同空港は、航空宇宙産業の一大集積地であるワシントン州にあり、MRJで実施する様々な飛行試験を考えると、特定の飛行試験に必要な長距離滑走路を備えており、定期便がなく離発着の自由度が高く、晴天率が高いなど、多くの利点があります。
 また、図8にも示しますように、飛行試験に加え、飛行試験同様に実際の機体と同等の機体を使用して、地上での強度試験を実施します。
 強度試験には静強度試験と疲労強度試験があり、現在、県営名古屋空港に隣接したMRJ技術試験場の試験設備で、静強度試験が開始されています。試験設備の中に設置された実機大の供試体__に飛行時に想定される荷重を負荷して、強度を確認します(図9)。

 

 MRJは世界のエアラインから評価して頂き、既に多くの受注を頂いております(表1)。これらのお客様との対話を通じて、お客様の競争力と収益力の向上に貢献できる、高い安全性と性能を兼ね備えたMRJを1日も早くお引渡しするべく、開発関係者は努力しています。

表1 MRJの受注状況(2014年12月1日現在)

   Order Option/
Purchase Right
 全日本空輸(日)1510
トランスステーツ(米)5050
スカイウエスト(米)100100
エアマンダレー(ミャンマー)
イースタンエアラインズ(米) 2020
小計375
MOU
日本航空(日)32
小計32
合計407

 新しい航空機を世に出すためには、ここに紹介した機体を用いた地上試験・飛行試験に加え、数多くの装備品や構造体の試験を実施して安全性を証明し、航空局の承認を得て、エアラインに納入します。ロールアウトを迎えたMRJも、2017年の初号機の納入に向けて、これからも開発作業は続きます。

 今回、無事にMRJのロールアウトを迎えられたのは、MRJ開発事業推進への国内外の各方面から頂いているご協力・ご支援の賜物です。この場を借りて御礼申し上げます。
 現在、初の国産ジェット旅客機MRJの試作第1号機は、初飛行に向け着々と地上試験と準備作業を進めています(図10)。ロールアウト式典での川井社長の言葉通り、これからも皆様のご支援を受け、MRJの開発に邁進して参ります。

(参考文献)佐倉潔、MRJを世界の空へ、『航空と文化』、108号(2014年新春号)

(おわり)

執筆

佐倉 潔

三菱航空機株式会社技術本部副本部長

*本記事は『航空と文化』(No.110) 2015年新春号からの転載です。

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