木製の飛行機を造り飛んでいます!(1)

 いつかアメリカのホームビルト機製作ドキュメンタリー番組をTVで見ましたが、自分で飛行機を作り自分で飛び、主人公が「この楽しさは他に無い」と語る。その「Supremely Happy」という響きはいつまでも忘れられないものでした。

 私も子供の頃から飛行機が好きで、ライトプレーン、Uコン機、ラジコン機など模型飛行機で遊びましたが、15年程前超軽量動力機/ウルトラ・ライト・プレーン(ULP)に出会い空を飛ぶ楽しさの虜になってしまいました。ULPの楽しさは自分の操縦で空を飛ぶこと、そして自分の機体を整備すること、更には自分で機体を作ることなど、各人の好みで誰でも楽しむ事ができる、という事ではないのでしょうか。そして10年前の西暦2000年『いつかは自分の乗る飛行機を造ってみたい』という夢を実行に移し始めました。

 インターネットや雑誌などから自分でも作れそうな飛行機を探し、米国のFisher Flying Products社が販売しているFP-303という機体キットを購入しました。「初心者向け」「木製」「特別な工具は不要」などのうたい文句でしたので、「これが良い!」と決めインターネットで注文しました。

 キットは米国ノースダコタからNorth West便で成田に直行、茨城県守谷の格納庫(兼作業場)に届いたのは2000年9月30日の事でした。それからは毎週土曜日に守谷の格納庫に通いコツコツと製作を続け、2008年6月「よし出来たぞ!」という状態になりました。

 実は3年もやれば飛べるだろうと考えて始めたプロジェクトでしたが、作業台や冶具を工夫し試行錯誤しながらの作業は思ったより時間が掛り、実際に航空局の飛行許可を得て初飛行が出来たのは2009年7月の事、なんと9年の歳月が経っていました。

 長い製作期間(凡そ2500工数)になってしまいましたが、私の場合は『作る楽しみを延ばし、充分に味わった』と思えば良いと、納得です。そして初飛行!25馬力の小さなエンジンでよく飛ぶものだと感心します。
ゆっくり時間をかけて作った飛行機でゆっくりゆっくり飛行するのも良いものです。

全幅8.42m、全長5.17m
翼面積10.26㎡
自重:119.2kg
最大重量:204.1kg(一人乗り)
巡航速度:50~55 mph(81~89 km/h)
失速速度:26 mph(42 km/h)
超過禁止速度:70 mph(113 km/h)
離陸滑走距離:38m
エンジン:Rotax277 Austria製
(単気筒277cc /2cycle、25馬力)
プロペラ:木製固定ピッチ
(直径60” x ピッチ28”/
プロペラが1回転して28inch進む)
燃料タンク容量:5gal
燃料消費:1.2 gal/hr
設計:Wayne Ison           

キット:Fisher Flying Products社(米国ノースダコタ州)

 航空史の中で最大出力25馬力の飛行機というのはどんなものかなと、探してみました。歴史上の名機を比較に引き出すのはおこがましいのですが「馬力のこと」に限って言えば、約100年前の1909年7月、英仏海峡を初めて横断した「ブレリオXI」がありました。「ブレリオXI」は私のFP-303よりも3メートル程度胴体が長い単葉一人乗り、アンザニ空冷扇型の3気筒25馬力エンジンを装備 した飛行機でした。

 重量がFP-303の1.5倍近くになる「ブレリオXI」がドーバー海峡を渡った時は、エンジンのオーバーヒートなんかを心配しながら大変だったのかなーと想像することが出来て、こんなことも楽しみの一つです。ちなみにこの「ブレリオXI」は現在も飛行可能なオリジナル機がイギリスのベッドフォード村の近くシャトルワース・コレクション(Air Museum)で見る事が出来ます。

 ULPの構造はアルミ管又は鋼管で組み立てた骨組みをダクロンの袋でカバーした翼と胴体、または骨組みのままの胴体という機体が多いのですが、私が製作したFP-303は全木製・羽布張りの機体で、大きなラジコン模型みたいな飛行機と言えない事もありません。

 このフィッシャーFP-303の構造上の特徴は”Geodetic Construction”/大圏構造です。軽くて丈夫な網目のような骨組みの構造は第二次大戦中のイギリスの爆撃機ヴィッカース・ウェリントンに採用されていました。もっともウェリントンの方は金属製の細い素材を籠状に組んだものでした。

 FP-303の設計者はアメリカのWayne Isonという人で、この飛行機は1982年に初飛行しています。機体キットとしてFisher Flying Products社から販売されて、アメリカの月刊誌KITPLANES Dec.2008のデータによると180機が売れています。

 このWayne Ison氏は後にIson Aircraft社(現在TEAM Aircraft)を作ってMini Maxなどの飛行機を設計製作、それらもキットとして販売されています。また彼は2000年の「EAA Ultralight Hall of Fame」に選ばれアメリカのウルトラ・ライト機の発展に対して大きく寄与した事で表彰されています。

 このフィッシャーFP-303は「機体キット」と言っても、設計図と素材だけの「材料キット」です。主要構造も細かい部品も全て素材からの手作りで、プラモデルのように簡単に組み立てが出来るものではありませんでした。

 それでも航空機用Plywood(薄くて軽く高強度のベニヤ板)、 Spruce(北米ヒノキで、軽くしなやかで加工し易い:柾目が通り間隔が狭いもの)、 アルミ材(2024や6061の Aluminum Tube, Angle, Channel, Bar および Sheet)それからAN Bolt, Nut, Cableなど色々な規格とサイズの航空機用正規(米・MILスペック認定)材料を自分で一機分買い揃えることは大変な事で、この種のキットを利用することは何と段取りの良いことかと思います。

 またキットに準備された材料を図面のとおり測って・切って・接着、これを繰り返し、組み立てていくと最後には小さいけれど本物の飛行機になるのだから素晴らしく、まずは図面とにらめっこです。守谷飛行場の片隅の格納庫では空調設備はなく、温度も湿度も外気のまま。そのため製作工程は季節と天気を選んで進めるしかありません。特に強度を要する構造部位の製作は良く晴れて、気温も適当な季節に行います。数年間に渡って作業内容が気候と調和する様に製作スケジュールを工夫しました。

○尾翼の製作

 製作は簡単な尾翼から始めます。

○木製機の耐久性について

 木製機の機体構造の接着組み立てはエポキシ接着剤を用いて行い、誰がやっても簡単で元の木部より強い強度が得られます。そして機体構造には組立てが完成した後もう一度胴体、主翼、尾翼を外して別々にエポキシ・ニスを塗ります。ニスを浸み込ませて塗り込むことで木を完全に外気からシールしてしまうのでFRP(Fiber Reinforced Plastic)ではありませんが木の繊維がエポキシで強化されたものです、しなやかで丈夫、錆びない、疲労しないなど強度、耐久性についての心配はありません。(とは言え、定期的な点検は欠かせません。)

○胴体と主脚の製作

 胴体は四隅にスプルースの縦通材(ロンジロン)が前面のFire Wallから尾部まで通るという構造です。 胴体前方は航空用プライウッドで囲まれた箱構造をとり、後はGeodetic Constructionとなっています。

○主翼の製作

 主翼の組み立ては、やはり簡単なリブ(翼断面をした構造体)作りから始めそれから主桁(Main Spar)作りです。主桁は約4mのスプルース材を上下のキャップ材にして、プライウッドのSpar Webが入る“Ⅰ- ビーム”構造です。

○必要な工具

 この機体Kitは「特別な工具は不要」とのうたい文句で、実際使用した工具は卓上ボール盤や電動ドリル、普通の木工工具、プライヤー、レンチ、ドライバーなどでした。機体のペイントの為、スプレーガンと充分な容量のタンクを備えたコンプレッサーが必要になり、友人から借り受けて塗装しました。

○ニス塗り

 前述の通り木製機の機体構造は組立てが完成した後、エポキシニスを浸み込ませ、塗り込むことで木を完全にシールしてしまうのでFRP(Fiber Reinforced Plastic)ではありませんが木の繊維がエポキシで強化されたものです。 Wood – FRP(wood-Fiber Reinforced Plastic)とは少し言い過ぎですが、しなやかで丈夫、錆びない、疲労しないなど強度、耐久性についての心配はありません。

○主翼の取り付け

 木製構造の基本各部品が完成して、いよいよ胴体に主翼を結合します。主翼の主桁と後桁を胴体にボルト結合し、翼の揚力を機体(胴体)に支える為の一本のストラットを主脚の車軸に繋げます。

2004年12月

 製作はここ迄で4年経過となりました。

続く

執筆

石原 能行

守谷フライングオーナーズクラブ

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