YS-11 オーバーラン事故修復の感動(大島空港)
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日本航空技術協会が発行している「YS-11エアラインの記録 国産旅客機を現場で育てた整備技術者、パイロット、スチュワーデス」に元日本航空技術協会理事の福井裕氏が書かれた文章「オーバーラン事故機の修復(大島空港)」がある。オーバーラン事故は1977年9月のことであり、30年近く前のことになる。福井さんの文章には「事故の概要」として以下のように書かれている。“昭和52年9月8日13時44分ごろ、全日空YS-11(JA8755)機が大島空港に着陸の際オーバーランし、機体は中破し、旅客13名が負傷した。” 当時の大島空港は1200m×45mと短かったが、現在の大島空港は、平成14年10月に1800m×45mに拡張・改善されている。福井さんの文章を読みながら、あの時の感動が甦ってきた。
この話の概要は、オーバーランしたYS-11を本修理地(大阪)までワン・フライト可能なまで、現地大島空港でテンポラリーに修復した技術的説明と苦労話等である。上記「YS-11エアラインの記録 国産旅客機を現場で育てた整備技術者、パイロット、スチュワーデス」に詳しい。当時私は全日空に入社して7年目のひよこ社員であったが、事務系の社員としては珍しく、整備本部管理部(当時の名称)に在籍し、予算関係の業務担当であった。私に大島空港における修理の管理部担当の指名があった。事故の数日後に現地に出張して始めて事故機を見た時は、素人目には直らないと感じたことを覚えている。その後、私は福井さんの文章中にもある大村彦夫氏に同行して現地に何度か出張したが、この時私は人生の中で最大の感動を経験した。私が見たこと、感じたことを述べてみたい。
修復場所は大島空港のエプロン横の空き地で、機体は野ざらしのままで20日間の修復作業であった。修復は全日空整備(株)の作業員が担当した。早朝から夜の9時ごろまでの野外作業は大変であったと思われる。夜9時過ぎに旅館(宿舎は為朝園という旅館であった。)に帰って、夕食、風呂に入ってからも、作業状況の確認や翌日の作業計画などの打合せをやっていた。空港近くにはレストランもなく、昼食は仕出し弁当を旅館にお願いした。野外作業の為か、手の甲を虫に刺され大きく腫れたまま作業している方もいた。雨の中の作業は特に大変であったと思う。福井さんの文章中のエピソード、「当時まだ珍しかったFAXを大阪~大島間に臨時的に設置」は、製品名を「デックス」と言ったと思うが、送られてきた用紙を見ながら、電話で再確認をしていたのを覚えている。「試運転の騒音で迷惑をかける飛行場周辺の家を手土産持参で一軒ずつ了解」にも同行した。不在の方もいて、回りきるのに時間がかかった。「テストフライト成功の感動」と「その夜の旅館での祝杯」、この場面にも現地で参加させてもらった。
福井さんの文章に書かれていない「感動」のシーンがある。福井さんは搭乗メカニックとして機上にいた為、この感動シーンは知らなかったであろうと思う。
大阪へのフェリーフライト当日のことである。秋晴れの大島空港には、昨日、テストフライトは成功していたものの、なんともいえない緊張感が漲っていた。エプロンに参集した全日空整備の方々も無口になっていた。機長、副操縦士、メカニックの方々が搭乗した。YS-11は滑走路を疾走しテイクオフ。テイクオフ前か直後か、今となっては記憶がはっきりしないが、全員が滑走路に向けて大きく手を振りながら走り出した。みんなが何かを叫んでいたと思うが、何を言っていたかはっきりしない。機体が上昇していったが、どの程度の高度であったか急に右に旋回した。走っていた全員の脚が止まった。全員の顔に不安が浮かんだ。どうしたのだろうか、不具合が生じたのだろうか、誰も口には出さないが一瞬凍りついたようになった。黙って機影を追った。機体はゆっくりと旋回し、もう一度滑走路上にやってきた。そして、滑走路上を飛行しながら主翼を振って、挨拶をしながら西の空に上昇して行った。YS-11が再度飛べたことを喜び、作業者の方々に20日間の労苦をねぎらい、お礼を言っているように感じた。主翼を振りだした頃だったと思うが、全員が再び叫び出した。もちろん意味のある言葉ではなかった。全員の目に涙があった。感動で涙が出る経験は始めてだった。涙を流しながら機影が小さくなっていくのを見送った。
全日空整備の方々が熱海経由新幹線で大阪に帰るのを大島港で見送り、空港に取って返してから、エプロンの清掃をした。ごみを集め、地面についた油汚れを水洗いした。大島町、東京都支所への挨拶、電話代・電気代・ガス代・宿舎であった「為朝園」の精算などを終えて、東京に帰ったのは翌日であった。自ら作業をやってはいないが、仕事をやったという充実感を味あわせてもらった。あの大島空港での修復に関係した方々に心からお礼を言いたい。「感動をありがとう」と!