こども模型飛行機教室

  戦後10年余りが経過した昭和30年代初頭の東京下町を舞台に繰広げられる人間味溢れる新作邦画「ALWAYS 三丁目の夕陽 」が一斉封切され、上映開始と同時に大ヒットとなりましたのは、記憶にも新しい昨年(2005年)11月の事でありました。ご覧になられた方も多いでしょうが、作品後半は 思わず目頭が熱くなる様なシーンが何度もありました。そこには、50年も前の 古き良き時代・昭和の一頁が 凝縮されていました。さて、この映画冒頭の上映シーンは、次のような印象深い画面描写で蓋を開けます。

昭和30年代初頭・東京タワー建設前の 下町三丁目の 民家が密集した狭い路地裏、四六時中泥んこ汗塗れで 夕飯過ぎ迄遊び回る下町っ子達が、上空へ手投げ発航 させた『彼等手作りのゴム動力模型飛行機』が、勢い 良く民家の甍の上高く旋廻しながら舞い上がって行く 様を、地上の子供達が嬉々として追い掛け廻し大通り の車道迄、こけつまろびつ走り抜けて行く。

 当時のゴム動力飛行機は、私も覚えがありますが、竹ヒゴを火で炙って曲げ、ニューム管で繋いで 主・尾翼に薄紙を貼り 霧を吹きつけて延ばし、指先で一頻り巻き上げたゴム紐を動力源に、上空へ手投げで押し出すものでした。子供達の遊びには、どんな物でもが巧に生かされ、今では下町からも姿を消してしまった駄菓子屋のアテモノにたむろする毎日。メンコ(ベッタン)・ビー玉・ベーゴマ(バイ)・釘差し 等に興じ、ナイフで削って作る竹トンボ飛ばしやザリガニ釣り。回し読みになるのは「冒険王」や少年ケニヤ。彼等はあらゆる遊びの中から、様々な生活学習と人間形成の糸口を巧に取り入れて行ったかの様でありました。

 ひるがえって平成の世、携帯とパソコン、TVゲームと塾通いに浸り切り、本来の感性さえ侵食され、鉛筆も満足に削れなくなっている今の子供達に、学校教育の場を通じて、何とか少しでも子供達の自然な感性を育くんで行く事が出来ればとの願いが原点となり(財)日本航空協会を主管とし、我が模型業界関連の各種団体、関係メーカー、流通業界各団体こぞっての応分の資金援助・人的支援の元に「こども模型飛行機教室」事業化への運動が日の目を見る事となりました。昨年2月3日、日本航空協会に於いて「こども模型模型飛行機教室全国推進委員会」という母体組織が立ち上がったのです。

 思えば 一寸でも危ない事には目を逆立て、ただ安全に安全にという理由で、子供達から刃物が取り上げられ、子供達が工作を楽しむ機会等は極めて少なくなってしまっているではありませんか。この運動を通じて私達が感じたのは、今でも子供達は 工作が大好きなのです。それには何の変わりもありません。むしろ変わってしまったのは 我々大人社会の方なのであり、更にその環境なのに違いありません。決して直ぐに答えの出る様なものではありませんが、模型のみに留まらず子供達の将来的育成に向けて息の長い地道な活動を積み上げて行く努力こそが肝要であると言えるのではないのでしょうか。

 さて、母体組織の立ち上げから数ヶ月の助走期間を経て、いよいよ実際に「第1回こども模型飛行機教室」が開講される運びとなり、『念願のキックオフ』に至りました。時に平成17年7月7日七夕様と七並びの日。東京都港区高輪白金台の神応(しんのう)小学校にて、同校5、6年生児童を対象に「こども模型飛行機教室」が開催され、校長教頭担任の先生方に混じって、私もご案内を戴き「キックオフ教室」の応援に参加させていただきました。当日の講師にお願いしましたのは2005年5月アルゼンチンで行われたフリーフライト世界選手権で、日本人初の世界チャンピオンに輝かれた金川(かねがわ) 茂さんと、助手はフリーフライト関連6名のエキスパートの皆さん方です。

 制作・飛行演習の後、この日は現場にNHK TVの中継が入り、教室終了時・NHK TVお昼のニュースで、たった今行われたばかりの「こども模型飛行機教室」の模様がリアルタイムで全国放映され、その場の参加者全員で鑑賞。正にヤンヤヤンヤの盛り上がりとなりました。学習教材には、当会正会員のユニオンモデルさんの「ユニオンモデルUP-02」と言うスチレンペーパー翼のゴム動力飛行機を使用しました。  

 この後、第2回目の教室は、千葉県成田市航空科学博物館にて9月の17日に開講。講師は第1回と同じく金川 茂さんと地元ボランティアの皆さん方。

 第3回目は、会場を関西に移し、京都府京田辺市にあります松井ケ丘小学校にて 10月28日、同校3年生生徒100名とPTAご父兄50名の参加で開講。同校は私も伺っていまして、よく存じているのですが、PTAの若いお母さん方の協力が大きく、朝から半日体育館と、飛行演習時には同校校庭全部を借り切ってのダイナミックな教室となりました。講師は現在KMA関西模型クラブ連合会会長の長谷川克さんにお願いしました。最終段階では講師自らの操縦に依る「電動ラジコン飛行機とハンドランチグライダーの実演飛行」もあり、子供達の興味をこの上無く引き付けました。 
  
 第4回目の教室は 11月6日、岐阜県多治見市の北栄(きたさかえ)小学校で、日本模型航空連盟理事長の落合 一夫さんを講師にお願いして実施されました。 

 続く5回目と6回目は、日本模型航空連盟フリーフライト委員会の平尾寿康(としやす)さんの講師で、11月12日に宮崎県日向市大王谷(だいおうだに)町コミュニティーセンターで、又11月19日には千葉県浦安市の舞浜小学校で同校生徒120名とご父兄50名の参加を得て行われ、実は此処でも千葉TV、浦安ケーブルTVが取材に入っての大変な盛り上がりとなった実施状況でした。 

 年が改まり本年平成18年に入りましてからの実行計画は、第7回教室を今週日曜日1月22日、宮崎県宮崎市宮崎科学技術館に於いて、(財)宮崎文化振興協会からの開催依頼で、毎年2~3回は開催して欲しいとの希望もあり、同校4、5、6年生50名余りを対象に実施。

 第8回教室は来月2月12日に千葉県木更津市陸上自衛隊木更津駐屯地にて、市の開催要請で、木更津基地祭とのタイアップと言う形で地元小学生4、5、6年生100名とそのご父兄参加での開講が予定されており、引き続き翌週2月19日には、岩手県盛岡市 盛岡県立大学にて第9回目の教室開催が予定されております。

 年度最終となります3月には、鹿児島県高山町に於いて、高山町役場と地元航空スポーツ愛好団体の要請を受けて、第10回目の教室開講という予定になっております。  

 以上が本年度平成17年度に於ける3月迄の「こども模型飛行機教室」計10教室の実施状況のあらましです。

 ここで、これら一連の「こども模型飛行機教室」実施開講を通じ、参加生徒全員に 毎回アンケート調査を実施していますが、その結果を要約してご報告いたします。

 各地共、飛行機教室の感想と模型への関心では、殆どの子供達が「愉しかった 興味を持てた」と答えています。

制作飛行演習に付いては、

  • 自分で作った飛行機が実際に飛んだときは 嬉しかった。又もっと他のものを作って見たい
  • 難しかったが 良く飛んだので、作った甲斐があった
  • 初めはやりたくなかったが、やっている内に凄く飛ばすのが楽しくなって来た
  • もう少し大きい飛行機やフイルムを貼った飛行機を作って見たい
  • 飛ばしている内に夢中になり、とても楽しかった
  • ラジコン飛行機が実際に飛ぶのを見れて嬉しくなった
  • 自分も色んなラジコンを作って見たいと思う
  • 作って飛ばして見れて楽しいので、これからもやってみたい
  • どうやったら飛ぶかを 考える事が楽しいので、もっと長く飛ぶ方法を 教えて欲しい
  • またきっとやりたい
  • 大人になったら 色んな競技をやってみたいと思う

等々、実に有意義な印象や感想を得る事が出来た訳であり、同時に 少なくとも 子供達の潜在的感性を呼び覚まさせる一助にはなり得たのではないかと感じている次第です。

 次年度以降の計画推進に向けては、オリジナル教材の開発や、流通展開への問題等、実施化対策にも貴重な資料として生かして行ける事と考えており、同時に各方面皆様方の ご支援ご理解に対しまして、心より厚く御礼を申し上げますと同時に、今後共 尚一層の ご協力を賜ります様お願い申し上げまして、誠に簡単でありますが、以上「こども模型飛行機教室」実施状況の進捗報告を終らせて戴きます。ご静聴有難う御座いました。

 

執筆

辻 脇  健

日本ラジコン模型工業会 専務理事

 こども模型飛行機教室は日本模型航空連盟をはじめ多くの模型関係団体の協力を得て実施されています。中でも協賛等で大きな支援をおこなっている日本ラジコン模型工業会の総会が2006年1月25日、東京で開催されました。その席上における同会専務理事 辻脇健氏の講演をご紹介いたしました。また、総会において次年度以降も会として協力を行なうことが決議されたとのことであり、こども模型飛行機教室の来年度の展開において、ひきつづき大きなバックアップを得ることとなりました。

(日本航空協会 航空スポーツ室)

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