IATA年次総会 46年ぶりに日本で開催
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本年5月30〜31日の2日間、IATA(国際航空運送協会)の年次総会・世界航空サミット
(Annual General Meeting & World Air Transport Summit)が、東京お台場のホテルで開催されました。
日本では2回目の開催、前回は46年前の1959年(昭和34年)、現天皇陛下・皇后陛下ご成婚、巨人軍の長嶋茂雄選手が天覧試合で村山実投手からサヨナラ本塁打を打った記念すべき年、高度成長に向けてテイク・オフしようとしていた時期です。 当時は大きな国際会議が日本で行われることもほとんどなかったことから、IATA年次総会の記念切手が発行されています。
一つ業界の100社以上のCEOが一堂に会するということは、おそらく他の業界ではないでしょう。これは、世界の民間航空が、お客様と貨物を複数の航空会社によって乗継ぎ運送(Interlining)する精緻なシステムを構築し、発展させてきたことの証しでもあります。多角的な連帯運送契約、運賃精算所、運賃の配分規則、運賃の調整がそのシステムの代表的なものであることは、皆さんご存知の通りです。
ところが、これらの既存のシステムが、アライアンスの進展やローコストキャリアー(LCC)の台頭によって、その存在意義を問われることになっています。 加えて、未曾有の燃油価格急騰により航空業界が深刻な経営危機に見舞われるという非常に厳しい状況の中、設立以来60周年を迎えた今年の年次総会が開催されました。
総会での議論は大きく2つのポイントがありました。 一つは、航空会社の要請に応え、
IATAが航空業界を低コスト構造に変革するため、StB(Simplifying the Business:ビジネスの簡素化)のビジョンを実行に移す取組みを始めたことです。 取組みは5つあります。
1.2007年末までに紙の航空券を廃止し、全てEチケット(ET)とすること。
ETの場合、お客様にとっては、航空券を受取る必要がなくなり、紛失する心配もなく、旅程の変更を電話1本で済ますことができるなど大きなメリットがあります。航空会社にとっては紙の航空券があるが故に付随する手作業が不要となり、コストの大幅な削減を実現できます。また、旅行会社にとっても、発券と航空券のお客様へのDelivery、航空券の保管が不要になるなど、大きなメリットがあります。
現在、ETの割合は全世界平均で32%(日本の国際線航空券では30%弱)ですが、これをあと2年3ケ月で100%にする非常にChallengingな取組みです。世界中の航空会社のうち1/4の航空会社は未だETの計画を有していないため、ET先進航空会社16社が手分けして後発航空会社を訪問し、開発計画作成の援助をする取組みが始まろうとしています。日本においては主要航空会社31社がETを実施しています。
2.空港における共同利用自動チェックイン機(CUSS: Common-Use Self-Service Kiosks)の展開
航空会社は自前の自動チェックイン機に比べ、低コストで運営することができます。空港会社にとっても、スペースの有効活用がはかれます。 世界の航空会社のうち、既に1/4の航空会社が実運用あるいはテストを実施しています。 対象となっている空港は2004末では9空港(ラスベガス・バンクーバー等)でしたが、2005年末には15空港に拡大する予定です。
3.搭乗券(Boarding Pass)への標準規格のバーコード導入
お客様がご自宅のパソコンで搭乗券を印刷することを将来的に可能にすることを視野に入れた取り組みです。
4.無線ICタグ(RFID: Radio Frequency Identification)付きBaggage Tagの採用
現在使用されているのは紙製のタグにバーコードが印刷されているものです。 お客様の出発空港では読取りの問題はほとんどありませんが、乗り継ぎ空港や到着空港に届くときには紙が「よれよれ」になってしまって、読取り率が落ち、手荷物の一時紛失との原因となり、お客様に多大なご迷惑をお掛けするだけではなく、航空会社にとっても大きなコスト負担となっています。 無線ICタグを採用することにより、 読取り率を大幅に向上させようという取組みです。成田空港を始め世界各地の主要空港で実証実験が始まっています。韓国
の空港では、RFIDの技術を活用し、お客様が手荷物を受取る手荷物引渡し所の一角のボードに、「間もなく出てくる手荷物のお客様の座席番号」が表示されるサービスを実施し、お客様に「安心」を届けています。
5.e-Freight(ペーパーレス貨物輸送)プロジュクト
航空貨物輸送においては、1件の貨物に対し、Air Waybillを始め38種類もの書類が作成されています。 世界中で作成されるその書類だけで、年間、何とボーイング747貨物専用機39機分(約4,000トン)にも達します。 2010年までに貨物輸送に関わる書類を全て電子化することにより、大幅なコスト削減を実現させようとするのがe-Freightプロジェクトです。
上述1.~5.の取組みは、業務効率化により航空会社のコストを削減するだけではなく、旅行会社やフォワーダー・空港会社に対しても大きなメリットをもたらすと同時に、お客様や荷主の利便性を格段に向上させるものです。 IATAでは、これらのプロジェクトを実行に移すために30名以上の専門スタッフを採用し、具体的な取組みを開始しているところです。
もう一つの大きな議論は、航空業界の改革のため、5つの提案を各国政府に示していることです。 総会の冒頭、ジョバンニ・ビジニャーニIATA事務総長はスピーチの中で、これらを強く訴えました。
1. 政府は航空会社を特別の資金源として扱うことを止めるべきである。 例えば、開発途上国に対する資金援助の原資としてフランス・ドイツが導入しようとしている航空券に対する課税に反対。各国政府は、経済成長を促進する原動力を航空業界が持っていることをもっと評価すべきである。
2. 独占的な立場でサービスを提供する空港会社や航空管制サービス提供者に対して、費用の効率化に真剣に取組むよう主導していく必要がある。
3. 政府は航空会社間の競争を阻害するような、一部航空会社に対する優遇価格や間接的な補助金の提供をやめるべきである。
4. 政府は航空業界に過剰に干渉すべきではない。 新たにEUで制定された欠航や遅延に対する旅客への補償規則は、航空会社にとって不可抗力な場合を含めて不当に補償を要求するもので、断固反対である。
5. 政府は航空業界に、他の業界と同様、ビジネスをする自由を与えるべきであること。
IATAの新たなミッションは、”Represent, Lead and Serve the Airline Industry” です。
IATAは、航空業界の健全な発展のため、強いLeadershipを発揮すべく、これらの改革に取組んでいます。是非ご注目下さい。
なお、年次総会に加え、11月12-15日には航空会社のスケジュール調整を目的とする第117回IATA Schedules Conferenceが大阪で開催されます。 日本では初めての開催で、世界中の航空会社と主要空港の発着コーディネーター1,100名が参加する大会議です。