新滑空場開拓記(2)- しろうと集団で造ったグライダー場 -

Field of Dreams

 試工事では葦の密生地域の内の約10,000平米と樹木の密生地域の内、約2,100平米を選定し、平成18年10月21日~29日までの土日4日間を使って伐採作業を行ないました。

 この日、一般のメンバーは現実に直面、工事の大変さと行く末を本気で心配したのではないでしょうか。葦や竹薮になたや鋸では歯が立たないことは直ぐ分かりました。その他、想定を超える大木の伐採など、予期せぬことがいろいろ起きましたが、その都度、底力を発揮して課題をクリア。特に重機(バックホー)導入の威力は絶大でした。重機が大木を根こそぎ引抜くのを見て、今まで半信半疑だったクラブ員も「これなら本当に出来るかも・・・」と思い始めました。

 久々にクラブ一丸となっての突進が始まり、士気も一層盛り上がり、予定以上の面積を伐採処理して大成功のうちに試工事が終了。河川事務所にも我々の実力を認めてもらえ、ついに11月28日に本工事の正式許可が下りたのです。

 いったん弾みがつくと後は2人組のリーダーシップの下、突進あるのみ。早速12月9日から隔週土日にクラブ員が集合し工事に励んだ結果、工事完了予定ぴったりの平成19年4月8日に転圧作業が完了し、全長700mの我々のField of Dreamsがついに完成しました。

 決して若くないクラブ員にとっては結構きつい作業の連続で、作業後の月曜日は節々が痛む体をだましながら仕事する状態でしたが、作業するたびに着実に河川敷が開けていくのが分かり大変達成感のある仕事で、皆ぶつぶつ言いながらも結構楽しんで作業していたように思えます。

 新邑久滑空場が完成し、彼らは「一息入れるから、少しの間休息する」と言っています。しかし、ランウェイや格納庫の整備などまだまだ課題がない訳ではありません。新しい牽引役が現れ、彼らが本当に休めるのか、それともこのまま突っ走るのか注目される昨今です。

 ところで、彼らが試行錯誤の末に獲得した滑空場開拓のポイントを少し記述しておきます。

(1) 廃棄物の処理
 彼らが一番知恵を出した点は、発生する膨大な量の廃棄物をいかに金をかけずに処理するかという点です。これが通常の土木工事ならどんどん廃棄物処理業者に持ち込むところですが、そんなことをすると処理費だけで1千万円を超えてしまいます。出来るだけリサイクルするよう工夫しました。その結果、廃棄物処理費は60万円程度でおさまり、費用削減に大きく貢献しました。

a. 葦や草の処理
クラブ所有のトラクター草刈機で伐採後、人海戦術で漂着ゴミをより分け、芦や草はパッカー車(ゴミ収集車)に投入して圧縮処理し、農家や酪農家に敷き藁等として提供しました。

b. 樹木の処理
重機(バックホー)で根こそぎ引抜いた後に、人海戦術でチェーンソーにより枝葉と幹を切断・分別し、枝葉はチッパー(粉砕機)でチップ化して農家に提供。幹の部分は近隣住民に薪やしいたけ栽培用として自由に持ち帰ってもらったり、チップ業者に原料として売却しました。

(2) 整地作業
大型ブルドーザーをレンタルし、N氏知人のリタイアした重機名人にアルバイトをお願いして2週間掛かりで整地。その後にH型鋼を車で曳いてのトンボ掛けとN氏お手製の4.5ton巨大ローラーによる転圧を繰り返して平坦化しました。

工事の総括

(1) 工事期間約5ヶ月、延べ日数41日
(2) 工事面積約52,600平方メートル
(3)  作業延人員360人日
(4)  工事費用約500万円
 クラブの一般会計では足りない分は、クラブ員から328万円の特別寄付をかき集めて充当しました。多分全部業者に頼んだら、ゼロを一つ追加しても足らないでしょう。

おわりに

 堤防道路の上に立って整地の終わった滑走路を眺めると、こんなに広大な土地を自分たちの力だけで開墾したのかと感嘆してしまいます。改めて素人集団が良くここまでやったな、と思うとともに、冒頭に述べた2人が本業を忘れて我々を引っ張ってくれた成果だと思わずにはいられません。

 フライト以外でも、やるときには全力を投入して実行する、多分あの情熱が多くのクラブ員を動かしたのだと思います。日ごろ顔を見せたことのない会員がチェーンソーを片手に参加したり、東北や関東から工事のためだけに手弁当で参加する会員もいました。重機の力がなければこのような大事業は達成できなかったかもしれません。しかし、フライトもないのに家族の白い目に耐えて駆けつけてくれたクラブ員の力なくしては、このような短期間、低コストで完成にこぎつけることは絶対不可能だったでしょう。

 併せて、クラブ幹部の度量の広さと統率力も忘れるわけにはいきません。私たちのクラブはよく飲み会を行います。一見チャランポランに見えるようですが、肝心のところはキッチリと押さえているところはさすがといったところです。

 グライダー人口の減少や高齢化が進む中、パイロットの個性化ばかりでなく孤立化・独立化が目につく昨今です。このような傾向が一概に悪いというわけではありませんが、一方で、たくさんの仲間と酒を飲み交わし、無謀とも思えるプロジェクトに全てのエネルギーを集中する。こんなことを実現できるクラブは日本中探しても他にはないのではないでしょうか。

 皆様も是非一度、我々のField of Dreamsにお越し下さい。一緒に空と酒と会話(議論?)を楽しもうではありませんか。

 

参考
関西エアロスポーツクラブホームページ
吉井川邑久滑空場

住 所 : 岡山県瀬戸内市邑久町福中地先(吉井川河川敷)
N34°40′28″、E134°04′21″
滑走路 :700m×40~70m(07/25)  Elv :16ft
OKU Flight Service : 130.775MHz

執筆

井上 求

関西エアロスポーツクラブ

LATEST

CATEGORY