歴史にみる模型飛行機の顔さまざま
(9) スケールモデル
歴史
実物の飛行機を、一定の縮尺(スケール)で同じ形、色彩に製作した模型飛行機を、「スケールモデル」と呼ぶ。プラモデルや展示用模型と異なり、一定の飛行が出来なければならない。模型機は操縦型の大型機で、実機の形を忠実に再現している。
1. はじめに
人が乗る実物機を一定の比率で縮尺した、相似形の(人が乗らない)小型の飛行機を「スケールモデル」と呼びます。実物と同じ形にしたいという点ではプラモデルも同様ですが、スケールモデル模型飛行機は「同じように飛ぶところを見たい」と言う動的な相似も指向しています。机の上で見るよりも、飛行中のほうが、はるかに本物らしく迫力もあります。
飛行にあこがれ、それを実現しているカッコイイ実物機とその飛行を、自らの手で真似しようとすれば、このような模型飛行機に至ります。最初にイメージされる模型飛行機の例が、スケールモデルかもしれません。
スケールモデルは、現在の競技用模型機の中では以下の点で少数派です。
・形態模型(後述)である
・BOM規定(前回参照、後述)が適用される
大部分の模型飛行機競技は飛行性能(機能)を競うものです。設計・製作は飛行性能を向上させるために行われ、外形は自由です。この種の模型飛行機は、実機の機能を真似したものですから「機能模型」と分類します。スケールモデルは実機の外形を真似して、その似せ方を競うものですから、機能模型に対置する「形態模型」に区分されます。
「BOM」とは、「Builder Of the Model(当該模型機の製作者)」の頭文字で、競技参加者の資格条件を規定した条文です。歴史的に見れば、模型飛行機は自分で作り、自分で飛ばすものでした。したがって、競技は、その両方の技術を競うものでした。模型飛行機はホビー(もの作り)とスポーツ(飛ばす技術)の複合した活動であったわけです。このことは、FAIスポーティングコードのはじめの部分に置かれている、いわゆる「BOM条項」に具現されています。
実は、現在の模型飛行機競技ではBOM条項は空文に近いザル法で、各級の競技の詳細を規定している特別規定の多くには、「総則にある当条項の適用を除外する」旨の規定があります。現在の模型飛行機競技の多く、特にラジオコントロールのような操縦型模型飛行機では、機体の操作技術のウエイトが大きくなっているので、機体の設計・製作技術を競技に含ませるBOM条項の重要性は薄れているのです。これに対してスケールモデルは、実物に似た外形の機体を作ることが出発点ですから、「自作機」という条件を外すわけには行きません。
スケールモデル競技の審査は、実物と機体の「似方」の評価からはじまります。種目によって精粗はありますが、一定のシステムに従って写真・図面・収集され考証された資料などによって、実物どおりに作られているかが採点されます。
このような静止状態の実物感の追求・評価という点では、博物館の展示模型やプラモデルも同じです。ただし、これらは静止模型ですから、飛行することは要求されません。どこも動かす必要が無く、無限に重たくても、重心位置がどこでもよく、厚化粧で実物のように見せればよいわけです。
これに対してスケールモデル「模型飛行機」は、実物と同じように飛行することが併せて要求されます。軽く、丈夫に作り、全体や各部が飛行機として機能しなければなりません。外形の似せ方と、飛行能力を両立させなければならないわけです。
機種・競技種目によっては、重量や飛行能力に余裕があり、静止模型に近い精密な外形の似せ方が出来るものもあります。その反対に、飛行に余裕が無く、軽量化が必要で、漫画のように特徴を捉えた似せ方が必要で、それが評価される種目もあります。
模型飛行機競技ですから、当然、飛び方の良し悪しも評価されます。静止状態の実物感と、飛行性能の両方のバランスを取らなければならない点が、静止模型と大きく違います。飛行性能については、縮小模型である故の問題が付きまといます。
縮小模型であるために、重量・翼面積・出力のバランスが実機とずれます。その結果、爆撃機よりも運動性の悪い戦闘機や、第2次大戦機よりも高速に見える第1次大戦の複葉機のような、現実と矛盾した飛び方に見えるスールモデル機が出現する可能性があるのです。
一般の競技用模型飛行機は、実物の形にこだわらずに性能を追求する。索につながれて円周飛行(反時計回り)するコントロールライン機は、左右対称である必要が無く、抵抗を最小とするためにこの様な形になった。
2.自由飛行型スケールモデルの歴史
昔の建築や造船の棟梁は、図面の代わりに縮小模型(雛形)をつくり、その段階で試行錯誤を行い、決定版を拡大して実物を作るというプロセスを取りました。飛行機のパイオニアたちもこの手法を踏襲したようで、第1回「航空の実現を目指した試作研究の道具」で採り上げた模型飛行機はこの種の雛形といえます。
但し、ストリングフェローの蒸気エンジン機はスケールモデル的でありましたが、ケーリー卿のグライダーとぺノーのゴム動力機は実物と似ていませんでした。ぺノーに到っては、模型機は主・尾翼のある通常型であるのに対して、実機の計画図は胴体と尾翼の無い全翼機で、外見はまったく別物です。
「空を飛ぶ」という飛行機の機能を共通項にした模型飛行機を、「機能模型」と呼んでいます。竹ひご翼・一本胴・ゴム動力のライトプレーンが代表的な機能模型で、ケーリー機、ぺノー機もその同類です。
1908年ころ始まったヨーロッパの航空ブーム、そしてその一部である模型飛行機ブームで、最初に試みられた模型飛行機はスケールモデルでした。しかしながら、飛ばなかったのですぐに淘汰されたのです。(第2回「英国紳士の遊び」参照)
スケールモデルは、お手本になった実物飛行機の外形どおりに作ります。辛うじて飛行している草創期の実物機を、同じ形のまま、小型で操縦ができないという悪条件の模型飛行機にしたら、飛ぶわけは無かったのです。
当時の模型飛行機の主流形式であった「A字型機」は、主・尾翼とプロペラの配置こそライト兄弟機の形式を踏襲していますが、外形はまったく別物です。そして、主翼は単葉です。
実機の世界では1930年くらいまでは複葉機が主流でした。然るに、模型機の世界では草創期にすでに単葉であり、1928年から始まったウエークフィールド競技機(第4回「世界選手権種目」参照)も単葉機ばかりです。
これらは、機能模型です。飛ぶためには「何でもあり」であり、実機の常識にとらわれずに飛行のためにもっとも効率のよい形に作られました。その点、スケールモデルは実機の形に拘束されますから、重くもなり、安定性も不足で、飛びにくくなります。
スケールモデル(形態模型)と機能模型は、模型飛行機の対立する二つの形式、つまり二つの顔です。スケールモデルは、機能模型によって模型飛行機を飛ばす技術が開発・進歩してから、飛べるようになりました。それまでは飛ばない難物でしたが、実物らしい飛行から与える感動や情報量などが機能模型よりも大きい点から選好されました。
両方の模型は、現在まで並列して飛ばされてきましたが、技術進歩の程度や社会情勢によってそれぞれに盛衰があります。たとえば、RC、CL(Uコン)など、操縦型の模型飛行機が登場したときは、スケールモデルが飛ばしやすくなりました。また、第2次大戦中は、敵機識別の目的で、スケールモデルが志向されたといいます。
3、操縦型模型飛行機の登場と、自由飛行型との相違点
1940年ごろに、コントトールライン(Uコン)、ラジオコントロールのような、模型飛行機を操縦する手段が発明され、普及しました。飛行中に遠隔操作で舵を動かして、向きを変え、姿勢を戻すことができるようになったわけです。
模型機を操縦する技術は、あらゆる模型飛行機に新分野を開き、操縦技術を積極的に利用した曲技競技(スタント、エアロバチックス)のような新種目も作られました。そして、安定性が不足で今まで飛ばなかった形のスケールモデルも飛行可能になりました。
操縦型の場合は、実機と完全に相似形に作っても、操舵によって安定を保って飛ばすことができます。ところが、操舵ができない自由飛行型の場合は、それでは飛べない場合が多々あります。実機や操縦型模型飛行機の場合は、姿勢が崩れたときには舵を使って修正(操縦)することが可能です。それに対して、自由飛行型の場合は飛行中の修正ができませんから、機体自身の自律安定性によって姿勢をもとに戻せなければ墜落します。
「自律安定性」とは、具体的には縦が水平尾翼の修正力、横が上反角の修正力ですから、不足の場合はそれぞれを大きくすることになり、実機の形と乖離してしまいます。自由飛行型のスケールモデルは、目立たない範囲で水平尾翼を大きくし、上反角も増やしていることが多いのです。
たとえば操縦型のRC模型機の場合、実機と同じ三舵がついていて、実機と同様な安定・操縦システムになっています。だから、操縦技術さえ十分ならば、実機と完全に相似形の機体が、実機と同じように飛ぶはずです。ただし、出力・重量、そして翼面荷重・馬力荷重などが、縮尺に対応する数値が取れない仕様は、飛行のバランスを崩します。静的(外形)には実機と相似であっても、動的(飛び方)は必ずしも相似にはならないのです。
1940年ごろに操縦型模型飛行機が出現するまでは、自由飛行型しかありませんから、スケールモデルを飛ばすことは難事でした。特に低翼機は難物で、飛ばしにくい模型飛行機の代名詞になっていました。さらにコトをややこしくしたのは、大多数の模型飛行機に使われていた動力ゴムの出力特性でした。
エンジンの場合、小さなプロペラを高速回転させる低トルク型で、トルクの変動はあまりありません。それに対して、自由飛行型のスケールモデルの多くはゴム動力であり、大きなトルク・大きなプロペラ・大きなトルク変動をコントロールしなければなりません。大きなプロペラのトルクは機体を反対側に傾けて姿勢を乱します。しかも、動力ゴムのトルクは、切れる寸前まで巻き込むと平均トルクの数倍まで急増します。
だから、ゴム動力スケールモデルをゴムの限界まで巻き込み、発航させたならば、機体は強く左側(プロペラは右回りだからその反対側)に傾けられ、多くは墜落します。あまりトルクが大きくならないように、限界まで巻き込まなければ、ゴムが蓄積するエネルギーが大幅に目減りします。いずれにしても、ゴム動力のスケールモデル機を長時間飛ばすことは、難事なのです。
このように、エンジンつきの操縦型と、ゴム動力の自由飛行型とでは、同じスケールモデルでも中身が大きく違います。前者は、実機と原動機や安定・操縦システムが近似しており、出力も十分にあるので、そのままで実機の至近に迫れます。いうなれば、写真のような「スケールモデル」です。
これに対して後者のゴム動力のスケールモデルは、出力の大きさや癖、安定に問題があり、加えて操縦を行わずに飛行しなければなりません。少ない出力ですから、機体は軽量化するために簡易な構造になります。
このような制約を前提としたスケールモデルですから、その表現法としては精密な写真では無く、簡略な要所の線で構成された略画・漫画に通ずるものになります。両者の差は大きいのですが、優劣ではなく、異なる流派なのです。
4、写実派? 印象派?・・・・
造形としてのスケールモデルの要素は、三次元的な輪郭と色彩です。実機とスケールモデルとは、大きさが大幅に違います。つまり、見る人間の大きさ(身長、目の位置)に対して、飛行機の相対的な位置や大きさが異なり、見え方が違うのです。
実機の場合は、飛行中は下側から、地上では横側のほぼ水平方向から機体を見ることになります。スケールモデルの場合は、飛行中は実機と同じですが、精密に観察される地上では上側から見られます。プラモデルのような小さな機体では、見られる視角の差がさらに大きくなります。このような条件を考えると、誇張・変形によって正確な縮尺よりも「本物らしく見える」可能性がある、という主張もうなずけます。
色彩についても、正確に実物どおりが、実物のように見えるかどうか、異論もあるのです。空気は完全に透明ではなく、塵や水蒸気を含んでいるので、遠くのものはそれだけ色が変わり、くすんで見えるそうです。飛行場で地上の実機を200mの距離から見るとき、目と機体の間の空気には200m分の塵が含まれています。
当該実機の1/20のスケールモデルを作って200m/20=10mの距離から見れば、同じ大きさに見えるわけです。但し、空気中の塵の量は1/20になり、色は実機よりも鮮明に見えます。1/200のプラモデルを1mの距離で見た場合も同じ大きさに見えるわけですが、色はさらに鮮やかになるはずです。スケールモデルを塗装する場合、実機と完全に同じ色を塗るのが「実物どおり」なのか、縮尺に応じて若干くすませるのが正解なのか、議論はありそうです。
さらに、色彩については「新品派」と「汚し派」があります。汚し派は、「ウエザリング」(自然退色)や、エンジンオイル、排気、人の手が触る場所、さらには軍用機の弾痕や修理の跡など、飛行機工場を出荷してから付く色彩の変化を、多くの写真から、あるいは理論的に想定し、付加することによって真実味を増強しようと努力します。
機体の表面の気流の方向を観察するとき、煤(すす)の混じった煙を流して、その付着具合を見るやり方があります。局部的な気流の方向は、翼と胴体の干渉によって場所によっては飛行方向からかなり偏れます。汚れの筋の付き方も同様で、空気力学的な深い考察が必要です。
原型の実機について、飛行機そのものの考証やトリビアについては、広く研究されていて、製作に織り込まれています。フラップ・降着装置・銃座・各種灯火・操縦席や客席の内部などは精密に再現され、実物のように動く場合もあります。
操縦型の大型エンジン機では、飛行能力に余裕があるために細部まで実物どおりに作れる。操縦席の中の機器や計器盤、プロペラや翼の使用による塗装のはがれ、修理の跡なども細かく再現されている。
単なる一般的な再現に止まらず、「誰の、いつの、どこの戦場における乗機である、**戦闘機」と言うような、個別化されたストーリー性のあるスケール化もあります。この場合、コクピットには当時の人気女優のピンアップ写真と、出撃待機中に読んでいた本の「スケールモデル」がさりげなくおかれているといいます。本の表紙がシェークスピアかハイネかエロ本かは、当該パイロットによって選択されます
盲点に、タイヤやプロペラのような外注の完成部品の正確な再現があります。
ゴム動力機はもちろん、エンジン機の場合も実機と出力特性が違いますから、飛行に使用するプロペラについてはスケールから外れることが許されていますが、展示・機体審査にあたって実機のプロペラに似せたダミーをつけているものもあります。純正部品とするために、プロペラブレードの図面を探したことがありますが、見つかりませんでした。
5、相似律
上空や滑走路付近のように目印が無い場所では、観測者は飛行速度を「機体の長さ」をモノサシとした移動距離で感じます。全長10mの機体が1秒間に5機長だけ移動したならば、50m/秒(飛行速度180km/時)で飛行しているわけで、観測者はそのように体感するわけです。縮尺したスケールモデルが飛ぶときも、移動距離が同じ5機長/秒であれば、実機と同じ速度(180km/時)で飛行しているように見えるはずです。この状況を「同じスケールスピード 」といいます。
昔のソリッドモデルのようなムクの飛行機があったとしましょう。大きさ(長さ)を1/2に縮小した場合、翼面積は1/2×1/2=1/4に、重量は、機体の体積に比例しますから1/2×1/2×1/2=1/8になります。翼面荷重は、(機体重量/翼面積)ですから、(1/8)/(1/4)=1/2になります。着陸速度は翼面荷重の平方根に比例しますから、平方根(1/2)≒0.7倍です。機長は1/2=0.5倍になり、飛行速度は0.7倍になったわけですから、機長単位で計った飛行速度(スケールスピード)は(0.7/0.5)=1.4倍です。つまり、大きさを1/2にした場合は、スケールスピードが縮尺の平方根倍の1.4倍になります。1/nのスケールモデルの見かけの飛行速度(スケールスピード)は、平方根(n)倍になるわけです。
現実の飛行機や模型飛行機の構造は、第5回の「バルサ革命」で記したようにムクではなくガランドウですから、上記の設例どおりにはならないかもしれません。それにしても、定性的には実機よりはRCエンジン機が、さらに小さなゴム動力のピーナッツ・スケール(超小型ゴム動力機:第6回室内機を参照)のほうが、速く飛ぶように見える(スケールスピードが高い)傾向は生じます。
第2次世界大戦の単発単座戦闘機は、平均的にはスパンが10m強、翼面積20平方m、重量が3000~4000kg、出力が1000~2000馬力です。これを60エンジンのスケールモデルにした場合、1/6くらいの縮尺になります。従って、相似率に従うならば、スパン1.7m、翼面積重56平方dm、重量14~19kg、出力4.6~9.3馬力で、外寸に比べて、重量と出力の理論値は現実よりも数倍大きくなります。
現実の模型機は、実機と違ってパイロットやペイロード・武装などは搭載せず、燃料の搭載量もきわめて僅かです。また、バルサ構造の利点もあり、現実の仕上がり重量は上記の1/5~6程度です。だから、重量の比率は1/(6^4)≒1300、翼面荷重は1/(6^2)になり、最小速度はその平方根の1/6です。だから、この設例では、スケールスピードで着陸することが可能です。
同じ第2次世界大戦の単発単座戦闘機をピーナッツ・スケールにした場合は、もう少し条件が厳しくなります。ピーナッツ・スケールのスパンは33cm以下ですから、縮尺は1/30位になり、相似律の重量はその3乗の 1/27000ですから110~150gになり、スケールスピードを合わせるとさらにその1/30の4~5gになります。スケール化の精粗によりますが、現実の模型機の完成重量はその2~3倍(10~15g)です。翼面荷重もそれだけ増えて、飛行速度はその平方根の1.4~1.7倍大きくなります。
加えて、超小型ですから翼型の効率が低下して(第7回参照)、最大揚力係数は2/3~1/2に低下します。この影響を加えると、飛行速度は2倍くらい速くなります。 つまり、第2次大戦の戦闘機の実機は、最大速度600km/時~着陸速度150km/時くらいの速度範囲で飛行しますが、ピーナッツ・スケールの場合は最低スケール速度が300km/時くらいになり、脚を出した着陸姿勢には似合わないようです。
スケールモデルは静止した展示模型ではなく、飛行する模型飛行機であり、FAIスポーティングコードの飛行審査条文には「実物感のある飛行」と記載されています。そうであれば上記の速すぎるスケールスピードは悩ましい問題です。
6、スケールフライト
バルサで作った模型機の直線飛行におけるスケールスピード問題を拡張すると、飛び方全般の相似性(スケールフライト)に至ります。縮尺1/nのスケールモデルの旋回半径や宙返りの半径が、実機の1/nになり、実機と同じ時間で行われるかどうか、飛行力学の数式体系で計算してみると、前節の相似律の機体重量ならばスケールフライトができそうですが、垂直面の運動については適当な出力調整が必要です。
RCスタントがFAIの競技に採用された1960年頃、旧日本軍の戦闘機乗りが健在で、飛行審査を行なったことがありました。命がけで曲技飛行を行なった人たちですから、その見解には重みがあります。彼らに言わせると、最も違和感があったのは、離陸直後の上昇角度でした。実機に比べるとスケールモデルの離陸は急角度過ぎると言うのです。
当時のRCスタント機の馬力荷重(機体重量/エンジン出力)は3kg/馬力くらいで、第2次大戦の戦闘機と大差ありません。従って、上昇率は大差がないと考えられます。然るに、翼面荷重(機体重量/主翼面積)は前述の相似律のように実機よりもはるかに小さくなります。従って、前進速度は遅くなります。
上昇飛行の垂直速度が同じで、水平速度が小さくなれば、上昇の角度は大きくなるのが当然です。だから、旧戦闘機パイロットの感想も当然で、その問題は現在のRCスケール機にも残ります。
実機は目いっぱいの出力を使って離陸上昇を行うのですが、前進速度が大きいので上昇角度は緩やかです。模型機が同じ上昇角の場合は、上昇率もスケールどおり1/6に落とすことになり、出力は大幅にあまります。ただしエンジンそのものをそこまで小さくしてしまうと、ほかの機動のときに不足するかもしれません。
急旋回で高度を失わないためには、大きな出力が必要です。宙返りのときも位置によって余分な推力が必要です。ロール(横転)については、スパン(翼幅)が小さくなった分だけ早くなるはずですが、飛行演技としては実機と同じ速さで行わないと実物感を失います。
現在のモデラーは古典プロペラ機のナマの飛行を見ることはありませんから、実機がどの様に飛んでいるか直接には解らないことは確かです。しかしながら、最大速度、最小(着陸)速度、上昇率はデータとして明らかであり、それぞれのスケール値は算出できます。旋回や宙返りのような単純な機動に付いては、飛行力学の公式を使って推定することも可能です。
従って、理論的には当該スケールモデルのスケール的な飛び方は推定でき、それを模範として飛行・評価することも可能なはずです。競技規定にある「実物感のある飛行」と言うことは、具体的に追い詰めると、このような「スケールフライト」に至ります。
編集人より
大村和敏氏は元模型航空競技・ウェークフィールド級日本選手権者であり、模型航空専門誌にも寄稿されています。