歴史にみる模型飛行機の顔さまざ
(14) 世間相場の顔
歴史
1、はじめに
毎回、さまざまな角度で模型飛行機の顔を追ってきましたが、見方としては内側からでした。つまり、モデラーの立場から、外界からは見え難い事柄を中心に纏めたわけです。
見方・立場を変えて、世の中一般から見た、模型飛行機の「世間相場」、いうなれば全国区の姿はどのようなものでしょうか?
模型飛行機の使って遊ぶことは、一般的には「レジャー活動」です。日本のレジャー活動を調査・記録した資料がレジャー白書(財団法人・社会経済生産性本部:以下「白書」という。引用数値は2007年版)で、「国民のレジャー活動を、需給両面から総合的に明らかにする」ことを目的としています。当該白書は昭和52年(1977年)に「余暇開発センター」が創刊し、途中で他組織に引き継がれ、今年で30余年目です。
この中の「模型飛行機」を見れば、世間一般がどのように考えているか見当がつきます。但し、今まで述べたように模型飛行機はたくさんの顔を持っていますから、我々が見る実態と官庁統計の画一的な見方とは乖離が大きく、それだけに、その差が興味深いと言えます。
白書は91種類の余暇活動を「スポーツ」、「趣味・創作」、「娯楽」、「観光・行楽」の4部門に分けており、「模型つくり」は「趣味・創作」部門30種類の一つです。
他方、白書「スポーツ」部門の28種類の中に、「ハンググライダー・パラグライダー<など>」という項目が含まれています。この<など>の中には、「完成した模型飛行機を購入して飛ばす」ことを楽しむ活動が含まれると解釈できます。正則的な「模型飛行機遊び」、硬く言えば模型航空活動は、機体の製作とそれの飛行を連続して行うもので(BOM制:第8回参照)、白書の上ではスポーツ部門・趣味創作部門のいずれに含まれるかは不明確なのです。
白書は、レジャー活動の経済効果の解明が目的・テーマです。つまり、「模型」などそれぞれの活動に、どれ位の市場・購買人口が存在するか? という視点なので、製作と飛行は個別的に扱われざるを得ないのです。
2、白書のデータ分析
まず、前述のスタンスで纏められたことを承知して、白書のデータを分析してみます。
白書は15歳以上を対象にして、日本の人口1億1000余万人を3000人の標本によって調査・推計したものです。
「模型つくり」の人口は全体の2.4%、260万人、「模型飛行機飛ばし」が含まれている「ハンググライダー・パラグライダー<など>」は0.3%、30万人です。
上記2.4%は、「趣味・創作」部門30種の中では参加人口としては少ない方です。同じグループのなかでも、受身の活動である、映画(35%)・スポーツ(16%)・音楽(33%)・ビデオ(38%)などの鑑賞の参加率よりも、1桁以上低いのです。
能動的な「モノ作り」の中でも、日曜大工(9.4%)、園芸(29.5%)、織物や編み物(9.7%)、洋裁や和裁(5.4%)、料理(8.6%)よりもかなり低いのですが、これらは実用の為の参加者も含み、高くなっていると考えられます。だから、絵や彫刻、陶芸、趣味工芸などは、「模型つくり」と同レベルの人口です。
「模型つくり」2.4%は男性の比率が圧倒的で、内訳は男性が4.8%、女性が0.2%です。これは他の活動には見られない特徴で、洋裁・和裁、編み物・織物の男女比でも、男性1に対し女性2くらいの差です。男子グループだけで考えれば、模型の参加率4.8%は、20人に1人くらいになり、低い数字ではありません。
戦争中の小学校の模型飛行機の授業(第3回「全体主義国家の学童教材」参照)の実施時期には、模型飛行機人口に1000万人と言われる多数の年少者(国民学校の生徒全員)が取り込まれました。白書の調査対象層(15歳以上)では上記に相当する年少者が切り捨てられていますが、1960年頃より年少者の参入は激減し、模型航空界は高齢化しているのが実態で、切捨ての影響は余りありません。
「模型つくり」と括ると、飛行機だけではなく、自動車、船、更にはキャラクター類までも含みます。「自宅で模型づくりをする」という活動ならば、プラモデルも飛行する模型も、やることは大差なく、白書では同様な経済活動として纏められたわけです。
プラモデルの中のシェアから見ると飛行機はかなりのウエイトがあり、この「飛行機模型作り」を控除すると、筆者が対象としている飛行・機能する模型飛行機は、ごく一部の少数派になります。
都市住民の場合は自宅の近くに適当な広場はありません。何らかの交通手段を使って飛行場まで行くことになります。継続的に飛ばしに行ける装備を整え、遠くの飛行場に出かけることは、結構高いハードルです。当初は飛ばすつもりの「模型つくり」でも、機体作りを完了した者の多くが、ここで挫折します。
正則の模型飛行機はホビー(モノつくり)とスポーツの複合活動であり(第8回参照)、飛ばすことが条件になります。だから、飾り物の飛ばない模型飛行機の製作と峻別されています。FAIの規定集は「スポーティング・コード」というタイトルで、自作機条項(BOM条項:競技者が自作の機体で参加することを求める条文)が事実上は削除され、購入した完成機でも競技に参加出来るようになっています。だから、現在は「飛行活動」優先とさえ言えるのです。
「模型つくり」層の中で、飛行場に出てくるスカイスポーツ層(作って飛ばす層)が大幅に減っています。模型機つくりそのものよりも、飛行場所へのアクセスの方法など副次的な活動が障害のようです。
3、費用の分析(間接費と間接活動に付いて)
白書によると、「模型づくり」に支出される平均費用は、年間15100円で、絵や彫刻、陶芸、日曜大工の半分くらいです。
「習い事」であることが多い絵や彫刻、陶芸は、教授料や会費等の割合が高く、直接にかかる材料や用具だけ比較すると、上記の差はかなり縮まるはずです。全バルサ構造(第4回「バルサ革命」参照。大型の機体もバルサだけで作れます。)や紙飛行機ならば、工作用具はほとんどの部分がカッターだけ済みます。材料も、棒材・板材・紙など加工度の低い、安価なものです。但し、文房具、厨房用具、電気用品などの汎用材を利用することがあり、その費用が漏れている可能性はあります。
さらに、間接費も加える必要があります。
飛行場所に自動車で行くならば、燃料費や償却費も模型飛行機活動のコストです。白書の「観光・行楽」部門に「ドライブ」という項目があり、その一部は模型飛行機を飛ばすための活動かもしれないのですが、模型との関係はつかめません。
電車やバスなどの公共交通を使う場合、かさばり、壊れやすい飛行機と、飛行用具などを上手に荷造りする必要があります。そのための旅行・運搬用具は、機体そのものより多額の費用がかかります。白書で言えば、「観光・行楽」部門の12項目のいずれかに入る費用ですが、模型飛行機との関係は不明です。
「紙飛行機」では、飛行機の機体を作る直接的な費用は安いのに、飛ばしに行く費用は高価な大型機と変わりません。したがって、間接的な活動や費用のウエイトが、極めて大きいことになります。
間接的活動、間接的費用は、実際に模型機を飛ばしに行って初めて体験するものであり、模型雑誌や模型の入門書などでも、ほとんど触れられていません。
模型飛行機の作り方や飛ばし方は、昔も今も、都市でも地方でも、オトナでも子供でも、あまり変わらないので、まとめて説明できます。
これに対して、間接的で付帯的な活動は条件によって様々に変わる個別的なもので、解説書などで一律に説明しにくく、触れられていないのです。それだけに、初心者にとっては想定外の障害であり、挫折する原因になります。
例えば「何を持って」、「どういう交通手段で」、「どこの公園に行って」、「どのようなマナーやエチケットを守って」、「どのような人たちと出会えて」、「どのような楽しいことがある」・・・などがわかれば、模型飛行機をとにかく作った人たちの背中を、タイミングよく押してやることが出来ます。実は、このような情報の伝達が、活動人口の増加に重要なのです。しかしながらこれらは個別性が強く、変わりやすく、固定的な参考書の記述になじまないのです。増して、世間的な見方や、縦割りの白書では、このような面が全く捨象されてしまいます。
4、世間の顔と歴史の顔
今までに採り上げた模型飛行機の「歴史の顔」と、白書の言うところの「世間の顔」を重ねてみると、それぞれの特色が浮き出ます。
模型飛行機の始まりの顔(第1回)は、実機と同列の「航空実現のための研究手段」でした。現在でも、航空機のメーカーや研究団体で模型飛行機を研究目的に使うことはあります。しかしながらこれらは、レジャー白書の対象とする、遊びのための模型飛行機の目的や用途とは違います。つまり、白書の「模型つくり」の対象に該当しない「模型飛行機」が存在するのです。
第2回「英国紳士の遊び」で取り上げた最初の模型飛行機ブームは、遊びとしての模型飛行機の始まりです。だから、白書の対象とする「模型飛行機作り」と同質ではありますが、全てをゼロから始めなければならなかったわけで、参入するハードルはきわめて高かったと言えます。
現在は手引書・参考書も多数あり、それが読めれば誰でも模型飛行機を作り、飛ばすことが可能ですが、実機の飛行成功から間もない当時としては、実機を作れるくらいの知識が必要でした。だから、当時の模型界を引っ張ったのは、デ・ハビランド、フェアリー、ソッピーズなど、後年のイギリス航空工業界のメーカー達の若き日の姿でした。
模型飛行機の歴史的な顔
左上~下:最初のゴム動力模型飛行機(A..ペノー)、最初の世界選手権機(ゴム)、1940年頃の世界選手権競技用ゴム動力機、操縦型のエンジンつき模型飛行機(コントロールライン式)
右上~下:スケールモデル(ゴム動力)、スケールモデル(エンジンつきRC式)とその実物、ゴム動力スケールモデルの精巧な骨組み、室内機(ゴム動力)
第3回目に採り上げた模型飛行機は、第2次世界大戦の戦前~戦中にかけて行なわれた、学童に対する航空教育の教材に使われたものです。
昭和17年(1942)には1000万機が生産され、対象となる学童(国民学校の生徒)も同じくらい居て、瞬間としてはそれくらいの人数の学童が模型飛行機を作り、多分?飛行させていたわけです。「多分」に?を付けたのは、前述のように模型飛行機を作ることと、それを飛ばすことの間にはハードルがあり、かなりの目減りが考えられるからです。
現在は、小学校などで模型飛行機の教育を行なっていません。また、この「模型飛行機」はレジャーのための活動ではなく、初等教育の教材です。さらに白書の対象年齢は15歳以上ですから、第3回で採り上げた模型飛行機は白書に含まれて居ません。
第4回は、模型飛行機の世界選手権競技会に付いて採り上げました。最近では日本から毎年参加して、10数人のチームを送っていますが、白書のデータの中では少数エリートの特殊例ということになるでしょう。1年間に国際級というトップエンドの大型機を数機製作し、国内の大きな競技会に何回も出場し、練習日も数10日に達しますから、投入される時間や費用も白書の平均値とはかけ離れて高いはずです。
もともと模型飛行機人口とその「競技人口」(さらに「公式競技人口」)とは、質・量ともに異なります。日本模型航空連盟(JMA)など各国の模型飛行機の統括団体は、競技の管理団体ですから、会員は公式競技に出場するために参加登録を行い、会費を納めた人々が主体です。だから、公式競技機以外(ローカル種目など非公式競技の対象機も含む)に参加する模型飛行機を作る人たち、公式競技機を作っても競技には参加する意思の無い人たちなどは含まれて居ません。
第5、6、7回は、バルサ革命と、それを発端とする余波(新機種への発展と模型空気力学の進歩)に付いて纏めました。従って、バルサを使わない機種に付いては関係が無いわけです。
白書の対象者には、紙飛行機が沢山含まれているはずです。また、袋物の古典的ライトプレーンも、多くはバルサを使っていません。スチレンペーパー機、フォーム・プラスティック機も同様で、非バルサのモデラーです。
第8回は、模型飛行機の本質論と言え、白書の捉え方と大きく違います。
模型飛行機の活動・楽しみ方は、まず「モノ」を作るところから始まったことは確かです。それが、技術の進歩、市場の成長によって、飛行操作の比重が増えてきています。現在ではゴルフのクラブのように完成機を調達して飛行操作だけを楽しむ、スポーツ面だけの活動として行なわれる場合も出てきました。
歴史の過程として、競技出場には出場機を自作することが不可欠で、その後も自作することが要求された時期もありました。競技規定には「競技参加者は、参加機の製作者(Builder of the Model)でなければならない」と記載されていました。自作機で行う競技を「BOM制」と言い、その競技規程を「BOM条項」とよびます。室内機やスケール・モデルでは現在もその規則が生きています。
また、設計から飛行までの連続活動が楽しいと言う一派もあり、この人たちは規則で強制されなくても自分で作った機体で競技に参加します。特に、技術力の高い層は、市販機よりも進歩した高性能機を作れるので、そのほうが有利です。
だから、模型飛行機の活動は「模型つくり」と「模型飛ばし」が抱き合わせの一体で、人によって両活動にさまざまな比重が付けられ、好みで選択されます。
然るに、白書では「模型つくり」に集約され、「飛ばす活動はスカイスポーツ(ハング・グライダー、パラグライダー<など>)に入るらしい?」というあやふやな形です。
また、飛ばしに行くには自動車が不可欠な場合も少なくありません。遠征のときは公共の交通費もかかります。白書の把握として、これらの費用は「行楽」や「ドライブ」に入るらしく、模型飛行機のような多要素の複合的な活動には、縦割りの統計は馴染まないようです。
第9回の「スケール・モデル」は、外形を実機と同じように作る機種です。実機と同じ形をしていますから、一般の方にはわかりやすい模型飛行機ですが、現実の模型機の中では少数派になります。前述のように、模型機の活動が製作よりも飛ばすことの方に重心が移りつつあります。だから、外形を実物に正確に似せて作る、製作が主体の模型飛行機は少数派にならざるを得ません。
模型飛行機は、航空力学など理科系の学術を基礎とする活動ですが、スケール・モデルは歴史や時代考証など、文科系の調査研究を必要とする点が特異と言えます。この部分は、白書では「模型つくり」に入らず、楽しみとしての研究・学術に入るようです。
模型飛行機は、あくまでも「飛行機・航空機」で、飛行することが大前提になります。だから、博物館の展示模型やプラモデルのように正確に美しく作っても、厚化粧で重くなって飛べなければ、飛行機として認められず失格です。種目によってさまざまですが、一定時間、一定距離、一定飛行コースなど決められた飛行を行なうことが、採点の条件になります。
第10回の「天気予報ゲーム」、つまり模型航空気象は、模型飛行機をつくることには関係がなく、趣味的な気象予報士の活動に近いといえます。だから、白書の「模型つくり」には含まれず、ほかの分類にも該当する項目がありません。
白書のような世間的な遊びの分類は、役所のように縦割りで、このような横断的な活動には馴染まないのです。しかるに、航空産業、航空活動は、空を飛ぶためにあらゆる手段をかき集めて利用しており、空を飛ぶ正則の模型飛行機でも同様に他分野を取り入れて活用します。
第11回の「新素材・複合素材」の取入れは、バルサ革命の反作用です。
プラスティックなどの新素材は日進月歩ですから、見張っていると模型飛行機に使えそうなものが続々登場します。バルサ材のように単一の天然材に比べると、特殊用途では優れているものがあるのは当然で、バルサ材の用途は蚕食されています。
誰かが新素材の使用例を作り、模型飛行機の材料として認知されてしまえば、それを使うことは通常の「模型つくり」の一環です。しかしながら、いつも新素材の市場に目を配り、候補材料を探して、模型機に試用して適否を見極めるという活動は、普通の「模型つくり」より一歩踏み込んだものになります。
第12回の「模型飛行機の美学」は、文字通り美学的な分析であって、白書で言えば「モノつくり」や「美術工芸」の項目全てに関わる大問題です。
白書の見方や世間の皮相的な見方では、その活動が何のために行われるかという目的の分析は行いません。然るに、その活動を行っている当事者にとっては、活動の目的とその結果はひとつではなく、その区分けは大問題なのです。
ほとんどの美しさの追求は、美しさを意識してそれを目標に努力されます。ところが、飛行機・模型飛行機の美しさは、設計者が意識して獲得・達成したものではありません。設計者は、空気力学、機械効率、重量あたりの強度、コスト、生産性、取り扱い性などの条件に縛られ、苦しい妥協として形を決めるのですが、うまく出来て性能が良い飛行機は必ず美しくなります。美の追求、達成のプロセスは絵や彫刻のような美術造形と異なり、それで居て美しい飛行機が作られますからまことに不思議です。
第13回は、模型飛行機の公害とその克服に付いて採り上げています。
発端はエンジン騒音でした。1930年代の技術進歩によって小型のガソリンエンジンが急速に普及して、対策が後手に回った結果です。現在では模型界に自浄作用として対策が充実し、モデラーのモラルや安全対策組織の拡充などで治まっていますが、過去の苦い経験として将来も心がけていなければならない面です。
この問題は、室内で製作している段階では生じませんから、白書の「模型つくり」の中の活動には無縁です。ただし、船・自動車など飛行機以外のエンジン付模型でも、野外で動かせば関わってくる一方、模型飛行機の中でもエンジンのつかないグライダーや室内機などには無関係です。
「飛行機飛ばし」の活動
左上~下:A字型ゴム動力機の発航(1910年頃。第2回の「英国紳士の遊び」を参照)/斜面飛行用グライダーの発航(1940年頃。第3回の「全体主義国家の教材」を参照)/室内機の発航(1980年頃。第5回「室内機」参照)
右上~下:コンバット競技の対戦者のUコン操縦。機体は鋼索につながれて遥かな頭上で空戦中、RCグライダーの斜面飛行(ほぼ現代)/国際級ゴム動力競技機の投げ上げ発航(ほぼ現代)
5、世間の顔と歴史の顔との差異の総括
前項のように歴史的な顔を個々に対比してみると、今までモデラーたちが行なってきた活動は、市場を意識した縦割りの官庁統計の「模型つくり」の枠組みをはみ出したものになっています。
航空活動・航空産業の成り立ちと、その学術体系を考えると、ピラミッド的な構造の一大システムであり、それを下敷きとした模型飛行機も同様です。
第8回で採り上げた、模型飛行機がホビー(モノつくり)とスポーツ(飛行操作による性能の競争)の複合活動であり、設計から飛行までの連続活動であるということは、航空活動の複雑性・多様性を具現しています。
このような多要素で複雑な「遊び」は、あまり例がありません。多くのホビーやスポーツは単能的であり、単純化指向にあります。
複雑系の活動の例を探すと、F1自動車やアメリカズカップ(ヨットレース)みたいなものになります。これらは、競技に使う複雑な道具を高度の技術を投入して設計・製作して、それを高い技能で運用して総合的な性能を競うものです。但し、上記はいずれも超巨額の費用と巨大な組織を投入し、多くの関係者が分業で最終目的に向かう活動です。
模型飛行機は、同じような内容の活動を独力で、個人のポケットマネーと余暇時間の範囲で遂行するわけです。当然、大胆な簡略化によって美味しい要素だけを抽出した活動になります。
人間は多能的・総合的なものであるにかかわらず、多くの遊び・競技は単能的です。模型飛行機は、例外的に多能性指向であり、全ての能力発揮の積み重ねが評価される究極的な個人競技です。
それに対して、世間の皮相な目、縦割りで経済効果だけを考えた白書の目が、模型飛行機の多様性に及ばないのは当然です。世間の目と内部の目と実態との対立軸は、多様性の認識・評価の有無にあります。
「模型」とは、実物に似せた小型版・雛形を指す場合が多く、白書の項目もその意味だとおもいます。そして、「模型」の元になった実物を「原型」と呼んでおきます。
あらゆる実物が模型化の原型になりえますが、動き回る原型、さらにはその動きの良否が評価・採点できるものはごく少数です。つまり、たくさんの原型が「模型つくり」の遊びの対象になりますが、動かせるものは少数で、さらに動きの良否が評価比較できるものはきわめて少数である訳です。
模型飛行機は、動きの定量的な評価が可能な原型をもつ、例外的な「模型」であり、加えて近年の傾向として「模型つくり」よりも「模型動かし」に活動の重心が移りつつあります。つまり、白書の区分で言えば「趣味・創作」部門ではない「航空スポーツ」の色彩が強くなっているのです。
模型飛行機のルーツは、第1回に触れたように19世紀の航空先覚者たちの実験・研究の道具でした。つまり、科学技術的な動機で作られています。
これに対して、多くの模型つくりは、美術的な動機で行われています。
白書ではこの区別は行われていませんが、世間的には後者の見方が多いとおもいます。模型飛行機を差別化するキーワードとして、「理系模型」と「美系模型」という区分が役に立つかもしれません。
模型飛行機が世間の見方から乖離していく大きな要因として、その旺盛な発展性があります。隣接する分野を必要に応じて吸収合併し、新しい活動、楽しみ方を創出し、変容を続けるからです。前掲の中では、アマチュア無線活動を吸収したRC模型機や、模型航空気象が実例になりますが、模型飛行機の隣接分野は極めて多く、「友達の友達は友達だ!」式の鼠算的拡張もあります。
次回の終章「どこまでが模型飛行機遊びか?」では、止まらない分野拡大を分析します。
編集人より
大村和敏氏は元模型航空競技・ウェークフィールド級日本選手権者であり、模型航空専門誌にも寄稿されています。